研究課題/領域番号 |
23560538
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
小西 啓治 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90259911)
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研究分担者 |
原 尚之 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10508386)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 複雑系 / カオス / 制御工学 / システム工学 / 非線形科学 |
研究概要 |
自然界のシステム,人工的なシステムなどでは,システム内部で多くの信号が伝達・処理され,システム固有の機能が維持されている.多数の要素が相互に影響を与える複雑なネットワークシステムのダイナミクスの解析は,様々な応用研究の基盤的知見を担う重要な基礎研究である.物理学における先行研究では,問題を簡単化するため,非常に単純な相互作用のみが想定されていた.自律分散型移動ロボットなどの実システムでは,各要素の相互作用の構造が未知であったり,時々刻々と変化したりする場合も多い.一方,センサーネットワークなどでは,各要素はWWW,無線通信,物理的な拡散結合などで相互に影響を与えあうことも多いため,伝達情報の遅延やパケット化は無視できない.これら2つの要因(相互作用を担う伝達情報の遅延やパケット化,相互作用の構造(トポロジ)の変化)がネットワークシステム全体のダイナミクスに与える影響は,その解法が困難なことを理由に未解決課題として残されている.本年度は,以下のような成果を得ることができた:(1) 非常に弱い拡散結合に伴うカオス発振器の安定周期軌道への収束メカニズムと実験による検証,(2) 伝送遅延が時間共に変化する結合系に生じる安定化現象の実験による検証,(3) オンオフ遅延フィードバック制御系の実験による検証,(4) 遅延発振器の安定化を誘発する遅延結合の系統的設計手順の導出.これらの研究は,本研究の目的に向けて,予備研究の拡張ならびに実験的検証を実施したものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施した研究では,予備研究での問題点を,実験レベルの視点で洗い出すことができ,今後のより具体的な研究の方向性を定める上で参考となる貴重な成果を得ることができた.例えば,予備研究で得られた理論的な知見では,相互作用が断続的にオンオフするネットワークシステムの安定性は,連続的な相互作用の場合より,条件によっては優れていることが見込まれたが,成果(3)により,実験レベルではその安定性の確保が難しく,優れた安定性の確保が目的の場合,断続的な相互作用は使用しない方がよいとの結論を得た.このように,本年度に得られた研究成果(1)-(4)は,今後の研究の礎を担い,次年度以降の研究は順調に進むと思われる.さらに,未発表ではあるが,ロバスト制御理論を予備研究の成果に導入する試みは順調であり,当初の予想よりも広いクラスのネットワークシステムで有用であることが明らかになりつつある.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は以下のサブテーマを推進させる.(1) 非常に弱い拡散結合に伴うカオス発振器の安定周期軌道への収束現象とネットワークトポロジーの関係を明らかにし,実験による検証を行う.(2) 伝送遅延が時間と共に変化するネットワークに生じる安定化現象とネットワークトポロジーの関係を解析的に明らかにする.この知見に基づき,安定化現象を確実に発生させる結合パラメータの設計手順を,ロバスト制御理論の活用によって導出する.さらに,これらの解析結果を実験的に検証する.(3) 遅延発振器の安定化を誘発する遅延結合の設計手法が,ネットワークの安定化に拡張できることを示す.さらに,これらの結果を実験的に検証する.(4) 動的な相互作用によるネットワークの安定化現象を確実に誘発するため,相互作用の設計手法を解析的に導出する.(5) 情報がパケット化された相互作用によってネットワークが安定化されることを示し,安定化現象の発生が保証された相互作用の設計手法をロバスト制御理論の活用により導出する.さらに,これらの解析的な結果を実験的に検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は学内の責任ある役職に就いており,研究実施にあてる時間が当初の計画よりも少なくなった.それに伴い,研究に必要な機材の選定・購入が遅れ,さらに,国際会議等で研究成果を発表する機会が見送られた.このような状況により,研究費は当初の予定より抑えることができたが,研究成果はほぼ計画通りに得られている.次年度以降,責任ある役職に就く予定はないため,当初の計画通りに研究を実施することができ,より積極的に研究を発展させ,研究成果の発表も活発に行いたいと考えている.今のところ,次年度は国際会議での発表を3回程度行い,さらに,研究に必要な機材も早い段階で購入する予定である.
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