研究課題/領域番号 |
23560558
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
井上 晋 大阪工業大学, 工学部, 教授 (30168447)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | PC鋼材 / 火災 / 高温履歴 / 付着 / 残存プレストレス / 耐火 / コンクリート |
研究概要 |
プレストレストコンクリート(PC)橋が火災を受けた場合,直後の供用性の判断や補修・補強対策の立案の際にはコンクリートや鋼材の受熱温度や残存強度に関する情報が必要となる。とくに,PC鋼材とコンクリートの間の付着によってプレストレスを導入しているプレテンションPC部材の場合は,その付着特性が高温受熱によって損なわれ,プレストレスの減少につながる可能性があるが,このことに関する既往の研究はほとんどない。 本研究では,(1)高温履歴を受けたコンクリート中PC鋼材の付着特性の把握,(2)高温履歴を受けたプレテンションPC部材の残存プレストレスと残存耐荷力の評価,の2つをその研究目的としているが,平成23年度は一般に用いられるPC鋼より線φ12.7とφ15.2を対象に,かぶりを変化させた付着試験供試体を用いて,最高温度を1100℃(タンクローリー車の火災を想定)および900℃に設定した耐火実験(受熱時間30分)を実施し,その後載荷試験を行うことにより,高温履歴の有無や違いがその付着特性に及ぼす影響を検討した。また,次年度に載荷試験を実施予定であるプレテンションPCはり部材12体の作製を行った。 耐火試験ならびに付着強度試験結果より,鋼材の受熱温度は900℃火災の場合,かぶり30,50,70mm位置でそれぞれ290,160,110℃程度,1100℃火災の場合,かぶり30,50,70mm位置でそれぞれ330,200,140℃程度となり,受熱温度の上昇に伴って付着強度も大きく低下することが明らかとなった。付着強度の低下に伴ってPC鋼より線の必要定着長が増加し,プレストレスが減少することが懸念されるが,このことについては次年度のはり試験により定量的な評価を実施する予定である。なお,付着強度の低下を抑制するためには,十分なかぶりを確保することの重要性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PC鋼より線とコンクリートの付着特性に及ぼす高温履歴の影響については,所定の成果が得られたと考えており,次年度に必要があれば追加実験を実施することを予定している。 また,プレテンションPCはり部材は作製済みであり,予定どおり平成24年度に耐火試験を実施し,その後に載荷試験を実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に作製したプレテンションPCはり部材の耐火実験および載荷試験を実施する。供試体は,幅×高さ×全長=160×250×3500mmであり,断面内に対称に上下1本ずつφ12.7PC鋼より線を配置したものとする。導入プレストレスは下縁で6N/mm2程度とし,コンクリートの設計基準強度は付着試験供試体と同様の40N/mm2とする。 実験要因は,(1)コンクリートのかぶり(付着試験と同様の30,50,70mm),(2)高温履歴の有無と受熱時間(最高温度900℃,30分を基本とし,他の要因の組み合わせを追加)とする。 供試体にはあらかじめひずみ計,熱電対を埋め込んでおき,耐火実験中の供試体内部の温度やPC鋼材位置のひずみの変化を測定する。これにより受熱温度と残存プレストレスの関係を考察する。また,載荷試験により残存プレストレス,残存耐荷力を確認し,これらと受熱温度との関係を健全な供試体との比較を通じて検討する。また,付着供試体とはり供試体間での受熱温度の違いや付着試験結果から予想される残存プレストレスとはり部材試験結果を整合性についても併せて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は実験補助等の謝金や資料収集旅費を計上していたが,両者とも特に必要とならなかった。一方で,平成24年度に予定しているはり試験の実験要因の組み合わせによっては,小型供試体による付着試験を追加する必要があり,それに応じて物品費が増加する可能性がある。したがって,平成24年度は,はり部材の載荷試験や追加の可能性がある付着強度試験の実施に際して,供試体用材料,治具用鋼材やひずみゲージ等の消耗品の購入のほか,載荷試験実施に際しての研究補助謝金,調査ならびに研究成果発表用の旅費等に次年度使用額も含めた研究費を使用することを考えている。
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