研究課題/領域番号 |
23560566
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
清水 茂 信州大学, 工学部, 教授 (90126681)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ハイブリッド鋼桁 / フランジ垂直座屈 |
研究概要 |
フランジ垂直座屈は、鋼桁の崩壊形式の一つであるが、腹板の強度がフランジの強度に比べ極端に弱い場合にのみ発生するとされており、通常はほとんど意識されていない。しかし、ハイブリッド鋼桁は、腹板にはフランジより低強度の鋼材が用いられることから、フランジ垂直座屈が発生しやすいといえる。現に、申請者が過去に行ったハイブリッド鋼桁に関する実験では、実験モデルの一つでフランジ垂直座屈が観察されている。本研究では、23年度は、主としてハイブリッド鋼桁のフランジ垂直座屈について、過去の実験結果を数値解析により再現する事を試みた。 数値解析の結果、単に鋼桁に曲げを作用させた場合は、フランジのねじれ座屈が先行し、フランジ垂直座屈は発生しなかった。しかし、解析モデルに三角形要素を用いた場合、実験で得られた垂直座屈変形とは異なっていたものの、一部、垂直座屈の発生が認められた。そこで、解析モデルを検討した結果、三角形要素の方向性により、モデルの対称性が損なわれていること、その非対称性が垂直座屈に関係しているらしいことが分かってきた。そのため、実験結果を子細に見直したところ、等しい大きさの荷重の2点載荷により載荷していたはずのところ、二つの荷重の大きさに1%程度の差があることが分かった。通常、この種の実験では、1%程度の荷重の差は誤差の範囲として扱われるが、解析で、二つの荷重の大きさに1%の差を設定して解析したところ、ほぼ実験と同じ結果が得られた。以上のことを含め、23年度の成果として、(1)実験に用いられた寸法を有する鋼桁の場合、本来の曲げによる崩壊形式は、フランジのねじれ座屈であること、(2)荷重の非対称性など、何らかの不完全性があると、フランジ垂直座屈が発生すること、(3)フランジ垂直座屈が発生すると荷重の急激な低下が生じることから、設計上の問題点となること が挙げられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、23年度は、ハイブリッド鋼桁について、そのフランジ垂直座屈の基本的な性質を調べること、ハイブリッド鋼桁に関する実験結果を数値解析により再現することを主たる目標としていた。うち、実験結果を再現することについては、特に荷重の非対称性を考慮することにより、ほぼ達成できたと考えられる。実験結果を見ると、2点載荷により等曲げを作用させたハイブリッド鋼桁において、その中央からわずかにずれた位置でフランジの垂直座屈による変形が観察されている。これに対し、数値解析では、当初は、ねじれ座屈が先行する、あるいは実験結果とは異なる位置で垂直座屈が発生するなど、実験結果を再現したとは言い難い結果が得られていた。しかし、荷重の非対称性を考慮した解析を行った結果、実験によるフランジ垂直座屈変形とほぼ同じく、桁の中央部からわずかにずれた位置で、実験結果と極めて似た形状の座屈変形が得られた。このことから、実験結果の解析による再現は、ほぼ完了したものと考えている。一方、フランジ垂直座屈の基本的性質については、フランジ及び腹板の寸法を変えるパラメーター解析を実施し、ある程度の傾向がつかめてきたが、まだ完全に解明した段階には若干物足りない部分もあるように思われる。以上のことから、23年度は、「概ね順調」と評価している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、23年度に引き続き、パラメーター解析等により多くの場合、特に実際に架設される鋼桁の寸法等を考慮した解析モデルについて、垂直座屈の性質を詳しく調べる事を、第一の目標とする。このさい、ハイブリッド鋼桁のみでなく、通常のホモジニアス鋼桁との比較も行う。さらに、フランジ垂直座屈強度を支配する要因を考察し、フランジ垂直座屈に対する照査方法を考察する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
24年度も、主として数値解析による研究を実施する。24年度の経費の主なものは、謝金と旅費である。現実の鋼桁設計を考慮したモデル設定を行うため、引き続き、第一線の橋梁技術者の助言を得ることとしているため、謝金を計上している。また、研究成果をポーランドで開催される国際学会で発表し、各国の研究者からの討議を受けることを考えているため、国際会議参加のための参加費・旅費を計上している。 なお、23年度は、当初計画で見込んだ金額よりも安価に研究が完了したため、若干の次年度使用額が生じている。
|