研究課題/領域番号 |
23560575
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
押川 渡 琉球大学, 工学部, 准教授 (80224228)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ACMセンサ / 小型センサ / 腐食性評価 / 海塩 / インクジェットプリンタ |
研究概要 |
高度経済成長期に建設された鋼橋等の社会資本の劣化損傷の危険性が高まりつつある。その取替・更新は容易ではなく,長寿命化を図ることが有効と考えられている。そのための維持管理手法の開発が大きな課題である。維持管理のためには実環境の腐食性評価と長期寿命予測の確立が不可欠である。長期寿命予測を行うにあたり,実際の屋外暴露試験では長期の時間が必要になるために,実験室内における加速試験方法の開発が望まれている。 これまで腐食性評価に利用してきたACMセンサは高価なため,安価で簡易的な評価が可能となる小型センサの開発を行った。これは亜鉛めっきのめっき厚さを変化させた鋼板を当該環境下に暴露することで,腐食環境に対応して亜鉛が腐食し,下地鋼である鋼の赤さびが発生する原理を用いる。暴露後の赤さび発生面積率や発生までの時間を腐食環境評価に利用する。併せて,従来のACMセンサとの対応関係を把握する目的で,屋外暴露試験を沖縄県および福岡県で1月から開始した。今後,定期的に観察を行う。 実験室加速試験を始めるに当たり,一定量の海塩を均一に付着させる方法を検討した。これまで超音波霧化装置を用いていたが,より簡便化を目的として,インクジェットプリンターを利用することを試みた。インクの代わりに海水を注入し,印刷することで,均一に海塩を付着できることに成功した。この方法で相対湿度(RH)と海塩付着量を一定とした種々た条件下での腐食試験を行い,RHと海塩付着量の影響について定量的に検討した。RHおよび海塩付着量が大きいほど,腐食速度が大きくなることを鋼板,ACMセンサの両者で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画はほぼ達成された。簡易小型センサは亜鉛メッキ鋼板を用いた小型センサにおいては実験が開始されているが,ステンレス鋼においてはまだ実施されていない。ステンレス鋼は耐食性に優れるため,従来鋼では腐食するまでに時間がかかりすぎる懸念がある。グレードの低い鋼種を選定する必要がある。腐食に及ぼす環境因子の影響においては,相対湿度(RH)と海塩付着量の影響については検討できたが,温度の影響は20℃と40℃のみであった。30℃,50℃についても実験を行い,温度の影響も系統的に把握する必要がある。今年度,海塩を均一に付着できる装置の開発に成功したことは今後の研究においては推進力になる。ただし,試験片サイズが30×30mmと小さいので,より大きなサイズにも適用可能となるよう検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究経費に残額が発生したのは,小型のACMセンサの開発を行っていたが,その設計が間に合わなかったためである。今年度,試作品を完成させる予定である。 今年度は簡易小型センサの暴露試験片の定期的な観察と回収により,腐食環境評価を行う。当該暴露地に設置した炭素鋼,純亜鉛板と小型亜鉛めっきセンサの相関およびACMセンサ出力との相関を明らかにする。 腐食促進試験では,温度の影響について系統的な実験を行い,温度,湿度,海塩の3因子の影響を明らかにする。その後,1日の実環境を模擬した気温,湿度サイクル条件下で,実環境と相似の結果が現れる促進試験条件の探索を行う。塩水噴霧,湿潤,乾燥サイクルの各時間や海塩付着量を変化させ,試験時間の短縮を図りつつ,促進倍率の増大が図れるか検討する。腐食試験後に生成したさびの分析を行い,現実を模擬した腐食試験方法であるかを検証する。 屋外暴露試験において促進させる方法として,海水散布暴露試験の実証を行う。定期的に濃度の異なる海水を噴霧することで促進性と相似性の相関を検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果を学会発表するための出張を2回予定している。また,前年度に未完成であった小型のACMセンサ作製にかかるスクリーン製版代,インク代や鋼材(試験片)と錆除去のための薬品代が消耗品となる。またさびの組成の検討を行うので,X線分析等の分析代を予定している。
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