研究課題/領域番号 |
23560576
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研究機関 | 宮城大学 |
研究代表者 |
上島 照幸 宮城大学, 食産業学部, 教授 (90371418)
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研究分担者 |
塩尻 弘雄 日本大学, 理工学部, 教授 (20267024)
仲村 成貴 日本大学, 理工学部, 講師 (80328690)
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キーワード | 常時微動・地震動 / 長期継続観測 / アーチダム / 振動特性 / 経時変動 / 地震時変動 / 有限要素法解析 / 構造健全性診断 |
研究概要 |
1 高経年化したアーチダムを観測対象とし約2年半に亘る微動・地震動の長期継続観測とそのデータ分析を通じて以下の知見を得た。 (1) 微動・地震動の長期継続観測実施中に2011年東北地方太平洋沖地震とその後の数々の大規模余震群が発生したが、それらの大規模地震前後で卓越振動数の顕著な変動は見られなかった.このことから当該ダムには損傷は発生していないと考えられる。このように、 a) 微動による卓越振動数のモニタリングによって観測対象ダムの構造健全性が評価できること、 b) 東北地方太平洋沖地震、およびその後の数々の大規模余震後においても観測対象ダムの構造健全性が維持されていたことを卓越振動数という数値によって客観的に提示できたこと、などの重要な諸点が明らかにされた意義は大きい。 (2) 微動の長期継続観測データの同定結果から、卓越振動数は堤体温度との相関性が高く概ね1年周期で変動していること、卓越振動数の変動幅は2-3Hzにも上り後述する地震時変動幅をも上回ることなどが分かった。 (3) 東北地方太平洋沖地震時にはダム天端において極めて大きい最大加速度を持つ観測記録(約630gal)が収録された。その際の地震動継続時間は3分程にも及んだ。 (4) 本震およびその前後での微動のスペクトル解析によれば、本震時には本震前微動時に比して卓越振動数が著しく低下(約1Hz程度)したが、本震後微動における卓越振動数は本震前微動における卓越振動数に概ね復したことが分かった。こうした現象は大規模余震時にも再現していることを確認した。 2 またダム全体の挙動を捉える目的で測点を高密度に配置して常時微動を計測し、ダム全体系における主要な振動モードを抽出した。その観測結果を表現できる三次元FEMモデルを作成しダム堤体と基礎岩盤の物性値を同定した。強震時にはダムの等価剛性が大きく低下したことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 高経年化したアーチダムを観測対象とし、初年度の早い段階で、微動・地震動の長期継続観測システムを構築し、それ以来一貫して観測を継続実施している。温度観測についても、上流側、下流側においてそれぞれ、堤体表面温度、気温の観測を開始し、継続実施している。 (2) この、微動・地震動の長期継続観測とその解析から、ダムの振動特性を把握した上で、その経時変動や地震時変動に関して、「9.研究実績の概要 1」で述べたような、多くの知見を得ている。 (3) ダム全体の挙動を捉えることに注視して測点を高密度に配置して常時微動を計測した。詳細にデータ処理した結果,ダム全体系における主要な振動モードを抽出することができた。 (4) 常時微動の高密度観測における結果を表現できる三次元有限要素モデルを作成した。モデリングの過程で、ダム堤体コンクリートと基礎岩盤の物性値を同定した。さらに強震時に低下した卓越振動数に着目し、ダムの等価剛性が7.7%低下したことを確認した。 (5) 地震後に卓越振動数はもとの大きさに復帰しているので、この現象はコンクリートの損傷に起因するものではなく、強震時ダムブロック間のジョイントの開きによるものと推測される。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 常時微動・地震動・温度の長期継続観測を引き続き実施する。蓄積されてきた、また今後さらに蓄積されていく観測データの解析を引き続き実施し、より長期間でのアーチダムの振動特性の経時変動を明らかにする。 (2) ダムの卓越振動数~堤体表面温度関係、貯水位との関係を個別に明らかに出来るか検討する。それらの関係を個別に明らかに出来れば、卓越振動数の経時変動へのそれら個々の寄与率が明らかとなる。 (3) 観測対象ダムの卓越振動数は大規模地震時には微動時に比して低下するとの現象について、より掘り下げた検討を行う予定である。また、既設地震計記録の分析を行い、過去の大規模地震と最近の大規模地震とでダムの振動特性に変化があるかについても検討を行う予定である。 (4) FEM解析においては、今後、長期連続観測の結果も参照して、岩盤の境界条件、貯水、ジョイント部などの影響が考慮された精緻なモデルを検討する予定である。 (5) 常時微動の高密度観測、微動・地震動の長期継続観測から得た知見、またそれらの観測結果を表現できるFEMモデルなどを用いることを前提に、振動観測を通じて構造健全性診断を行うには、さらに何を明らかにすればよいか、研究する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては、OA用品などに\250千円程度、旅費としては、成果発表旅費、研究打合せに\250千円程度、謝金としてはアルバイト費用などに\50千円程度、その他としては、主として観測用に設置してきた諸設備の撤去費用、および観測中のダムのPC監視用通信料とその解約費用として、\350千円程度をそれぞれ充てる予定である。
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