研究課題
高経年化したアーチダムを対象とし卓越振動数の常時変動・地震時変動を把握することを目的として微動・地震動の長期継続観測を実施して以下の知見を得た;(1)ダム堤体の上下流方向の卓越振動数は夏期に高く冬期に低いほぼ1年周期の経時変動を示しており堤体温度との相関が極めて高いことが示された.また年間での卓越振動数の最大値と最小値の差は3Hz程にも上っており後述する強震動を受けた際の変動幅をも上回る.ダム表面温度の低下に伴いダムが収縮することでアーチ効果が失われ堤体コンクリートの圧縮応力が低下すると継目部の影響によりダムの等価剛性が低下し堤体の卓越振動数の低下が引き起こされるものと推察される.(2) 2011年東北地方太平洋沖地震時には,1) ダム天端において極めて大きい最大加速度を持つ観測記録(約630gal)が収録された.その際の地震動継続時間は3分程にも及んだ.2) 収録された加速度時刻歴波形記録は複数の波群から構成されており第1波群より40-50秒程度後の第2波群において最大加速度が記録された.これは宮城県内の多くの観測点での強震波形と共通の特徴である.3) 本震とその前後での微動のスペクトル解析から,a)本震時には微動時に比して卓越振動数が著しく低下していたこと,b)本震後微動における卓越振動数は本震前微動における卓越振動数に概ね復したこと,等が明らかとなった.4) その後の数々の大規模余震時にも3)同様の現象が再現しており,ダム堤体への大きな損傷はなかったものと判断される.(3) このように,1)微動による卓越振動数のモニタリングによってダムの構造健全性が評価できること,2)東北地方太平洋沖地震およびその後の数々の大規模余震後においてもダムの構造健全性が維持されていたことを卓越振動数という数値によって客観的に提示できたことなど,重要な諸点が示された意義は大きいと考える.
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土木学会論文集A1(構造・地震工学),地震工学論文集
巻: Vol.69,No.4(第32巻) ページ: I_742-I_749
10.2208/jscejseee.69.I_742