研究課題/領域番号 |
23560581
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 忠信 神戸学院大学, 経営学部, 研究員 (00027294)
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研究分担者 |
葛 漢彬 名城大学, 理工学部, 教授 (90262873)
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キーワード | 構造工学 / 構造ヘルスモニタリング / カオス理論 / アトラクタ / 構造同定 / 起振器 / 模型実験 / カルマンフィルター |
研究概要 |
カオス信号を入力とした構造物の応答値からアトラクタを作成し、構造物が損傷を受ける前後のアトラクタを比較することで損傷検出を行う手法を提案した。一般的にアトラクタに基づく解析手法の一部は、ノイズに対してロバストであり比較的少ない時系列データに対しても適用できるという利点を有する。昨年度は、カオス性を有する外力に対する構造物の応答から得られるアトラクタを、Recurrence Analysisで定義されている指標を用いて定量化し、この値を損傷検出指標と名付けこの値を構造物が損傷を受ける前後で比較することで損傷検出を可能とする手法を開発した。まず、応答の時刻歴からアトラクタを作成するアルゴリズムを構築した。次に、カオス性を有する外力を入力とする構造物応答のアトラクタをRecurrence Analysisに基づいて処理することで、損傷検出アルゴリズムが構築できることを明らかにした。本年度は数値解析より、提案手法の有用性を検証した。さらに、別途研究費でカオス信号に基づいた起振力を発生できる装置を作成し、模型構造物の起振実験を実施した。作成した起振器は偏心質量型のものであり、入力したカオス信号を正確に再現できる性能を有してはいないが、カオス特性を十分に保有する起振力を発生させることが可能であることを、まず確認した。次に、4層の模型構造物を作成し、最上階に作成した起振器を載せ、カオス起振力でベースライン構造物の起振実験を行った。さらにベースライン構造物の各層の柱の剛性を減少させた模型構造物を同じ起振信号で起振した。両者の構造損傷検出示指標を比較ことにより、損傷の発生場所を検出できることを明らかにしたのち、カルマンフィルターを用いて、損傷程度を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に続き24年度の研究計画として下10項目を設定した。10項目ごとに達成度を記入する。 (1)カオス現象を発生できるいくつかの微分方程式群を対象として、カオス時刻暦を発生させ、その周波数帯域特性を調査し、広範囲の周波数帯域をカバーできるカオスを抽出する(100%達成)。(2)カオス性を有する外力を入力とした構造物の応答時系列から得られる再構成アトラクタをRecurrence Analysisにおける指標を用いて定量的に評価し、指標の変化を損傷前後で比較することで損傷を検出するという新しい損傷検出手法を提案する(100%達成)。(3)一箇所の構造部材が損傷を受けても全ての構造要素の応答が変化するにも関わらず、アトラクタに基づいた損傷検出では、損傷部位による応答の変化のみが検出されるメカニズムを明らかにする(100%達成)。(4)せん断型の5層フレームモデルを対象とした数値解析により、高レベルの観測ノイズが付加された条件のもとで、非常に小さな損傷を検出できることを明らかにする(100%達成)。(5)提案手法のノイズに対するロバスト性、小さな損傷を検出できる敏感性の高いことを理論的に証明する(100%達成)。(6)3次元フレームモデルを対象に損傷検出の数値解析を行い、提案手法が複雑なモデルを対象としても十分に適用できることを示す(50%達成)。(7)偏心質量型の起振器を作成し、カオス入力信号に対する追従性を検証する(100%達成)。(8) 各層の剛性と減衰特性を任意の値に設定できるようなせん断型4層フレーム模型構造物を作成する(100%達成)。(9)作成した小型起振器模型構造物を揺すり、構造物の応答からアトラクタが再現できることを確認する。(10)ピエゾ素子を用い、与えられたカオス信号と同じ起振力を発生できるような起振器を作成し、その性能を詳細に検査する(起振器作成中)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)損傷の有無を判定するだけでなく、入力と出力の再構成アトラクタを利用した、構造同定アルゴリズムを開発する。理論展開には既に発表済みのモンテカルロフィルターやサポートベクトルマシンの概念を利用するが、時系列として再構成されたアトラクタを利用するので、従来のアルルゴリズムに比べ同定精度が向上する。(2)せん断肩5層フレームモデルを完成させと3次元フレームモデルを利用した数値解析により提案手法の有効性を検証する。1箇所のみが損傷を受けているときを対象として、同定できる損傷のレベルの最小値を明確にする。複数個所が同時に損傷した場合の組み合わせに対しても同定できる限界を明らかにする。(3) 24年度に作成途中だった5層フレーム模型構造物を利用し、提案する手法の有効性を検証する。実験東南大学構内で実施する。(4)3次元フレームモデルを対象に損傷検出の数値解析を行い、提案手法が複雑なモデルを対象としても十分に適用できることを示す。(5)作成した偏心質量型の小型起振器の性能向上を図る。 (6)各層の剛性と減衰特性を任意の値に設定できるようなせん断型4層フレーム模型構造物を作成する。(7)偏心質量型の小型起振器を模型構造物の最上階に設置して、カオス型起力で模型構造物を揺すり、構造物の応答の時刻暦からアトラクタが再現できることを確認する。(8)ピエゾ素子を用いて、与えられたカオス信号と同じ起振力を発生できるような起振器を完成させ、その性能を詳細に検査する。実験は東南大学構内と名城大学構内で実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
模型実験を行うための費用に20万円を、消耗品費として20万円を、40万円を研究発表のための旅費として使用する。
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