研究課題/領域番号 |
23560582
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
片山 拓朗 崇城大学, 工学部, 教授 (80310027)
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キーワード | 制震 / ダンパー / 摩擦 / 変位 / ばね |
研究概要 |
変位の増加に比例して減衰力が増加することを特徴とし、漸高摺動機構、定高摺動機構、拘束リング、H型シリンダーおよび並列ピストンで構成する、振動減衰装置について、実際の構造物に適用可能な能力(最大減衰力100kN、最大振幅40mm)を備える装置の動的往復載荷試験を実施した。南海トラフ巨大地震に伴い発生すると予想される長周期地震動を想定し、載荷試験の継続時間は20分とした。最大減衰力100kNは試験装置の能力より決定した。 往復周期8秒と6秒の条件では、変位と減衰力の関係は計算値と良く対応し、反復回数の増加と共に減衰力が微増した。摺動部の温度上昇は周期8秒の場合が約15℃であり、周期6秒の場合が約20℃であった。周期4秒の条件では、変位の増加に比例して減衰力が増加する一方で、往復回数の増加とともに減衰力が顕著に増加した。摺動部の各部の温度上昇は60℃~40℃であった。往復周期8秒~6秒であれば実用的な耐久性が確認されたが、周期がこれらより短くなる場合には摺動部の温度上昇による減衰力の増加が生じることが明らかになった。 また、振動試験用の小型振動減衰装置(最大減衰力1kN、最大振幅35mm)の設計、製作および静的往復載荷試験を行った。U型板ばねの代替として、新たにTi-Ni系の超弾性合金ワイヤーを用いる方法を採用した。載荷試験の結果より、この方法によって変位の増加に比例して増加する減衰力を理論通りに生成できること、ワイヤーの径や取付け条件を変えることによって最大減衰力を容易に調整できることが確認された。また、ばね鋼のU型板ばねの方法に比べて、この方法の製作費は大幅に低減することが判明した。さらに、この方法を拡張させることによって、U型板ばねの方法では乾式であった摺動体を湿式の摺動体に変更することができるため、飛躍的に耐久性を向上できる可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際の構造物に適用可能な能力(最大減衰力100kN、最大振幅40mm)を備える提案の振動減衰装置について、継続時間20分の動的往復載荷試験を実施し、下記の知見が得られた。 ①反復周期8秒および6秒の条件では、変位と減衰力の関係は試験値と計算値が良く対応した。試験中の摺動体の温度上昇はそれぞれ約15℃と約20℃であり、減衰力が反復回数の増加すなわち摺動体の温度上昇とともに僅かに増加する特徴が見られた。②反復周期4秒の条件では、反復開始直後においては変位と減衰力の関係は試験値と計算値が良く対応したが、反復回数の増加と共に減衰力が増加する現象が見られた。この条件の摺動部の各部の温度上昇は60℃~40℃であった。③漸高摺動機構および定高摺動機構は、高力黄銅に固体潤滑剤を埋め込んだ軟質摺動体とオーステナイト系ステンレス鋼の硬質摺動体の組み合わせにおいて、摺動面圧を適切に設定することで実用的な耐久性を確保できる。 反復周期が長い場合には、提案の装置は実用的な減衰能力を備え且つ十分な耐久性があり、反復周期が短くなる場合は、摺動部の温度上昇により減衰力が反復中に増加する場合があることが明らかになった。反復周期が短い場合は、摺動面圧を下げることによって改善が可能と考えられる。よって、提案の装置は、摺動面圧を適切に設定することにより実用的な減衰能力を備える装置として実現が可能と考えられる。 また、拘束リングのU型板ばねの代替としてTi-Ni系の超弾性合金ワイヤーを使用する新しい形態の装置を開発した。試作機の載荷試験の結果より、この方法によって変位の増加に比例して増加する減衰力を理論通りに生成できること、ワイヤーの径や取付け条件を変えることによって最大減衰力を容易に調整できることが確認された。 以上の様に、提案の振動減衰装置は課題を克服しつつ、実現に向けて確実に開発が進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
提案の振動減衰装置について、これまで得られた研究成果を総合的に検討すると、U型板ばねを用いる拘束リングで実用的な減衰力が得られるが、U型板ばねの製造コストが高額であるため、現在の最大の課題はU型板ばねに代わる経済性な拘束リングの形態を開発することと考えられる。H24年度は、U型板ばねの有力な代替としてTi-Ni系の超弾性合金ワイヤーを使用する新しい形態の拘束リングを開発した。この超弾性合金ワイヤーを用いる試作機の能力は最大減衰力1kN・最大振幅35mmであるので、これのワイヤーの取付条件を変更し、最大減衰力を10kNに増強し、変位と減衰力の関係を動的往復載荷試験により調べ、この方法の実用性を検討する。 また、H24年度の研究により、U型板ばねを用いる拘束リングでは、往復周期が4秒程度になると、摺動部の温度上昇によって反復回数の増加と共に減衰力が増加することが明らかになった。超弾性合金ワイヤーを用いる方法でそのような現象が現れるかを往復載荷試験により検証する。さらにワイヤーを用いる方法では、装置にオイルなどを充填し摺動部を湿式摺動に拡張することも容易であり、試作機は既にそのような機能を備えている。乾式の場合に比べて湿式の場合の摺動面の耐久性は飛躍的に向上すると予想されるので、湿式の摺動面の耐久性を調べる。 さらに、超弾性合金ワイヤーを用いる方法と湿式摺動を併用すると、オイルの粘性を利用して粘性減衰機能を振動減衰装置に追加することも可能である。すなわち、変位および速度の増加に比例して減衰力が増加する振動減衰装置を実現することが可能と考えられる。試作機の摺動体の形状を部分的に改良し、動的往復載荷試験によってこれを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Ti-Ni系の超弾性合金ワイヤーを用いた装置の動的載荷試験を実施するために、装置を試験装置に固定するために治具の製作費200千円、摺動体の製作費100千円、オイルなどの購入費47千円、研究成果発表のための旅費100千円の支出を予定している。 H25年度の直接研究費の合計は447千円と予定している。なお、447千円の内、47千円はH24年度の直接研究費の残額である。この残額47千円は研究費の節約などによって生じた。
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