研究課題/領域番号 |
23560590
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
檜尾 正也 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (00335093)
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研究分担者 |
菊本 統 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90508342)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 盛土 / 健全性評価 / 維持管理 / 長寿命化 |
研究概要 |
本年度は研究計画に沿って、盛土の変状・破壊事例や調査データの収集、表面波探査の実施、モデル試験装置の製作と試験の実施を行っている。盛土の変状・破壊事例や調査データの収集、表面波探査の実施では、既存の高速道路盛土に対してデータ収集を行い、盛土材質・地形・盛土高等で分類整理した。その抽出した要注意箇所のうち、将来的に健全性の低下が懸念される盛土をさらに選択して、表面波探査の実施を行った。また、比較のために、これらの盛土と合わせてその近辺にある要注意箇所の盛土に対しても、探査を行った。建設直後の健全な盛土と比較して、全体的に盛土内部のS波速度が小さい。また、S波速度の分布から従来把握できなかった弱点箇所の把握も行えることがわかった。また、ボーリング地点の物理試験(標準貫入試験)データとの比較からも、おおむねS波速度とN値は同じ傾向を示しているため、簡易評価として表面波探査が有効である結果が示せた。ただし、定量的な評価を行うためには、盛土材の強度や密度とS波速度の関係、盛土建設時のS波速度分布の初期値との比較が必要となる。モデル試験の実施では、2次元モデル試験土槽を作製し、浸透水による盛土の安定性への影響を検討した。土槽前面は盛土内部の状態変化を観察できるようにアクリル板となっている。また、土槽内に傾斜地盤を模擬した通水可能な板を設置し、そこから水を盛土内に進入させることで地下水が盛土内に浸入していくことをシミュレートしている。試験時の盛土内部は地下水に進入によって間隙が増大し、不安定化していく様子が観察できた。盛土材の粒径を変えた試験を行うことで、スレーキングが懸念される材料でさらに大きな岩塊を含んでいる盛土材を使った盛土では、地下水の浸透が局所的に集中することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、盛土の変状・破壊事例や調査データの収集、表面波探査の実施、モデル試験装置の製作と試験の実施を行った。この中で、盛土の変状・破壊事例や調査データの収集と表面波探査の実施は計画通りに研究が進んだ。特に表面波探査の実施では多くの盛土に対して表面波探査を行うことで、盛土内部の状態を把握でき、簡易的な健全性評価ができることがわかった。この研究成果は土木学会主催の年次学術講演会で発表する。また、今後の定期的な探査結果との相対的な差異を比較することで、地盤内部の剛性変化が捉えられ健全性評価のための重要な資料となる。一方、モデル試験装置の作製、モデル試験の実施では、実験機の試作に遅延が生じたため、予定していたすべての実験を行うことができなかった。ただし、スレーキングが懸念される盛土材を用いた場合の実験は行っており、スレーキングや締固め特性の違いが盛土の安定性に及ぼす影響は検討できた。この研究成果は地盤工学会主催の地盤工学研究発表会で発表を行う。今後は盛土が建設される原地盤の地形の差異(水平地盤、傾斜地)による盛土の変状パターンを検証する。そのため、モデル土槽を改良し、計測機器等を追加することを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、表面波探査、モデル試験の実施を行う。本年度からは、点検・検査手法の提案とマニュアル化、数値解析の実施も行う。現場計測、モデル試験、数値解析によって得られたデータをもとに、評価手法の開発を行う。点検・検査手法の提案とマニュアル化では、収集した調査データや表面波探査の結果を比較することで、盛土内部の状態(S波速度の2次元分布)と盛土表面の状態(変状・湧水の有無や程度、植生の変化)との相関関係を検討する。また、周辺地形や地盤、地下水の状態で、盛土を分類し、それぞれの分類での変状や破壊事例、変形パターン等を整理する。それらの整理から、分類されたそれぞれの条件での点検箇所や検査方法を提案する。数値解析の実施では、モデル試験で行った条件を忠実にシミュレートした解析を行う。解析に用いるモデルは、低拘束圧(モデル試験スケール)から高拘束圧(実地盤スケール)までの地盤材料の挙動を数少ないパラメータで妥当に表現できるモデル(subloading tij model)である。このモデルは粘土、砂、礫を同一モデルで表現することができるため、非常に汎用性の高いものとなっている。したがって、モデル試験のシミュレートだけでなく、表面波探査を行った現場にたいするシミュレーションも行う。評価手法の開発では、どのような箇所にどのような変状が見られると盛土が危険になるのかを判断する手法の開発を試みる。行ってきた現場計測やモデル試験の結果を整理することで、将来的に健全性が低下する可能性のある重点箇所やモニタリングの対象とすべき箇所の抽出や選定するための判断基準を検討するものである。具体的には、周辺の状況で分類しマニュアル化した点検や検査の結果を用いて、数段階の評価(健全、要観察、要詳細検討、要対処)が行える簡易評価式を開発する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も本年度同様に表面波探査およびモデル試験を実施する。そのため表面波探査では、探査現場の事前視察のための国内調査旅費が必要となる。また計測時には機材運搬用のレンタカーや交通費、作業アルバイトの人件費等に用いる。モデル試験では本年度作製したモデル試験土槽の改良や計測機器や計測用コンピュータの購入等に用いる。また。次年度からは有限要素法による数値解析を行うため、高性能のコンピュータが必要となる。また、現場計測、モデル試験では、計測・実験で材料や素材等の消耗品が必要となる。さらに、現場計測・モデル試験・数値解析で得られた多くのデータを記録するためのメディアも必要となる。
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