研究課題/領域番号 |
23560603
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
中山 恵介 北見工業大学, 工学部, 教授 (60271649)
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研究分担者 |
榎本 浩之 国立極地研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (00213562)
佐々木 正史 北見工業大学, 工学部, 教授 (10322885)
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キーワード | メタン / 成層場 / 内部波 / 環境変動 / 寒冷地域 / 地球規模 |
研究概要 |
メタンは地球温暖化ガスとしてはCO2に比較して大気中での分解速度が大きく10年程度の寿命であるが,温室効果はCO2の約25倍であり,北極圏からのメタン発生量は地球全体の1/4を占めていると報告されている.北極圏のような極域では,地球規模での環境変動の影響が現れやすいとも言われており,温暖化により永久凍土層上の活動層が厚くなり有機物などの生成が活発化し,最終的に河川が流れ込む湖沼において富栄養化が進行し,メタンの発生量が増大することが予想されている.そこで本研究では気候変動の影響も考慮し,北極圏における永久凍土の融解による富栄養化とメタン発生量の推定を目指し,閉鎖性水域における物質循環,貧酸素水塊の発生機構解明を目的とする.初年度は,地球規模での環境変動の影響を調べるためにGCMを利用した将来予測の可能性について検討を行い,適用可能性を示すことが出来た.2年目である本年においては,寒冷地域のメタン発生湖沼の代表として網走湖を対象とし,メタン発生のモデル化を行った.まず,過去において計測された湖内のメタン濃度の時空間変化を解析し,その発生要因となる酸素濃度,水温,堆積層の性質などを調査した.網走湖では底層に明確なヘドロ層が形成されており,そのヘドロ層が空間的にどのように変化しているかを,蛍光X線装置を利用して元素解析により解明した.その結果,数kmスケールの網走湖ではヘドロの堆積が空間的に大きく異なっていないことが確認され,メタンの発生は底層から均一に発生しているとモデル化できることが分かった.酸化還元などのモデル化も行い,最終的に網走湖内におけるメタン発生モデルの基礎を構築した.その結果を検討するための材料として,3月末にアラスカにて現地観測も行い,結氷下における湖沼内の水温分布およびメタン濃度の測定も実施した.最終年度に向けて,これまでの成果を取りまとめたいと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
温室効果ガスの1つであるメタンの湖沼からの発生モデルの作成および将来予測に利用できるようなパラメータの抽出を行うため,まず網走湖におけるメタン発生モデルの作成を行った.過去に計測された湖沼におけるメタンの鉛直分布を再現するためには,底層におけるメタン発生,酸化還元,それに関連するメタンの消費を考慮する必要があることが分かった.特に,底層にたまったヘドロ状の底泥からのメタン発生は,酸素濃度,水温,硫酸イオン濃度が重要な制限要因であることが分かった.現在,網走湖における底泥を不撹乱採泥器を利用して採取し,メタン濃度,酸素濃度,水温,硫酸イオン濃度を測定し,メタン発生速度の推定を行う実験を行なっているところである.残り1年でそれらのモデル化の目処がたった.さらに,網走湖だけでなく,アラスカにおける結氷下での水中の水温分布およびメタン濃度の測定を行った.特に重要な成果として,結氷直下では水温がゼロ度付近であり,深くなるにつれて密度が最も大きくなる4度に近づくことが確認された.つまり,冬期間においても夏季の日射の影響による成層と同じ構造が存在していることが証明されたこととなり,冬期間においても成層の効果により貧酸素化の進行速度が中立状態の水中より早くなり,メタン発生が促進されていることが推測された.冬期間は水温が低いため,夏季ほど大きなメタン発生量ではないと考えられるが,それでも予想以上のメタン発生量である可能性が示された.よって,本研究で目的としていた項目に関して着実に成果が得られており,研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の残りが1年となった.これまでに,メタン発生・消滅モデルの作成,および北極圏における湖沼の流動に関する計測等が順調に進んでおり,残り1年でメタン発生速度に関する水温,硫酸イオン濃度,酸素濃度を制限要因とした室内実験を実施し,モデル化を終了する予定である.また,北極圏における流動構造を支配している結氷条件に関する観測を実施できたことを考慮し,結氷する1年を通じた湖沼の流動モデルを構築し,メタンモデルと合わせて観測結果の再現性の検討を行う予定である.現地観測は,網走湖を中心とした観測を実施する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当せず.
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