研究課題/領域番号 |
23560606
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木内 豪 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00355835)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 河川水温 / 水・熱収支解析 / 人工系水循環 / 流域熱輸送 / 多摩川 |
研究概要 |
水温は水圏の生態系にとって、また、水質の中でも最も基本的かつ重要な要素である。河川水温に関しては、近年、大気と水面との熱輸送などの物理的メカニズムの解明が大きく進展してきたが、今後世界的に都市の拡大や人口増加、温暖化の進行が予想される中で、多様な人間活動が水温にどのような影響を及ぼし得るかについての総合的な研究は行われていない。そこで、本研究では、都市化による河川水温上昇と生態系への影響が垣間見られる多摩川を対象に、その温度環境の実態や温度場の形成要因の解明、さらには適正な水環境を取り戻すための管理手法・対策の評価を行う。 平成23年度においては、多摩川流域の水温の時空間分布の詳細把握と次年度以降のモデリング研究に必要なデータの計測・収集を行った。まず、過去20年間を対象に多摩川の本川における流量・水温と流域の気象条件、放流される下水処理水量・水温等の情報を入手して分析を行い、水温が流下方向に極めて特徴的な変化をすることや冬期において中下流部で3℃以上も上昇し、かつ、上昇傾向がまだ続いていることを明らかにするとともに、水・熱収支解析を行い、都市排熱や他の要因の影響を定量化した。また、中下流では流れが浅くて礫性河床区間が多いため、河床熱伝導過程や伏流水と河川水の水・熱交換も熱収支にとって重要な要素となることから、河床熱伝導と地下水―河川水の相互作用を考慮した素過程モデルを構築し、流下方向一次元の河川水温解析を実施した。また、次年度以降、連続情報を用いた解析に用いるため、水温計測機器を多摩川本川4か所に設置するとともに、下水処理施設6か所においても水温時系列情報の計測・収集を行った。流域スケールの解析に必要となる基礎情報として、自然系と人工系の流域情報・水利用情報を取得・整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計測機器設置と継続的データ収集は、河川管理者と下水道管理者の協力を得ることができ、おおむね予定通りであるが、機器の流失等の問題によりデータ欠測が生じた。過去のデータを用いた分析が予想以上に順調に進み、有益な成果を得ることができた。河床の熱伝導プロセスを考慮した素過程モデルも本年度で構築することができ、予定を上回る進展が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、衛星情報を用いた水温モニタリング手法について検討を行った結果、本手法には精度上限界があることがわかった。一方、礫性河床の熱輸送過程に関する計測とモデル化から、河床におけるプロセスの重要性が示唆されたことから、衛星情報取得にかかる分の経費を次年度以降の実測・モデリング研究に利用するよう研究計画の軌道修正を行った。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述の通り、本年度、衛星情報を用いた水温モニタリング手法について検討を行った結果、本手法には精度上の限界があることがわかったことから、この部分の検討で当初予定していた執行額に残額が生じた。一方で、本年度の検討から、礫性河床の熱輸送過程に関する計測の必要性が明らかとなり、この部分の検討により多くの予算が必要となることから、次年度にこれを利用して効果的な研究実施を目指す。次年度では、上記の実測・モデリングに必要な機器の購入と実測実施に研究費を使用する。また、当初予定よりも水温等のモニタリング期間を延長し、継続的なデータ収集を行うための費用にも割り当てる必要がある。また、本年度の成果がまとまったので、国際会議にて発表を行うための旅費に使用する。
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