研究課題/領域番号 |
23560606
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
木内 豪 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00355835)
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キーワード | 河川水温 / 水・熱収支解析 / 多摩川 / 河床の水・熱交換 |
研究概要 |
水温は水圏の生態系と水質形成にとって最も基本的かつ重要な要素である。河川水温に関しては、近年、大気と水面の熱輸送などの物理的メカニズム解明が進展してきたが、今後世界的に都市の拡大や人口増加、温暖化の進行が予想される中で、多様な人間活動が水温にどのような影響を及ぼすのかについての総合的な研究は行われていない。そこで、本研究では、人間活動の影響による河川水温上昇が垣間見られる多摩川を対象に、その温度環境の実態や温度場の形成要因の解明、さらには適正な水環境を取り戻すための管理手法・対策の評価を行う。 平成24年度においては、多摩川流域の水温の時空間分布の詳細把握のため、合計8地点における河川水温と下水処理水放流水温の連続計測を継続実施し、データの分析を進めた。また、多摩川本川河道内において、気温、湿度、風速、日射量等の連続計測を行った。さらには、2012年8月と2013年2月に現地集中観測を行い、夏期と冬期における河川流量や河川熱収支に関する詳細把握を試みた。これらの結果、夏期には下水処理水の放流により、河川水温の上昇が抑制されている実態が示されるとともに、河床を通じた伏流水と河川水との間の水・熱交換にも同様な機能があるとともに水温変動を平滑化すると推定された。一方、冬期は下水処理水の放流が水温形成に支配的であった。平成23年度において構築した河床熱伝導と河川水-伏流水の水・熱交換を考慮した多摩川の水温解析モデルを夏期と冬期の集中観測期間に適用し、下水処理水の放流や伏流水-河川水の水交換が河川水温に及ぼす影響について検証を行った。夏期には水・熱交換の存在が水温上昇抑制に大きく寄与していることが示唆されるとともに、冬期には放流水の影響が大きく、水・熱交換の寄与はそれに比べると限定的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通年にわたる詳細な連続計測データが整備され、この分析から、新たな知見を得ることができた。また、これらの計測データを用いた河川水温モデルの検証を進めることができ、流域水循環・水温解析モデルに組み込むための知見を蓄積することができた。今後、流域スケールモデルの適用・検証と水文学的水温管理手法の検討が残されているが、現時点ではおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、流域スケールの水循環・水温解析モデルの適用・検証と水文学的水温管理手法の検討を行う。これまでの研究の結果、多摩川の水温形成に影響を及ぼしている要因としては、大気・河川間の熱輸送に加えて、上流域の貯水池からの放流やその下流における取水、中流域の下水処理水の放流、河川・河床間の水・熱交換の影響が大きいことから、今後は、モデル解析に基づきながら、これらの影響度評価を行う。また、実施可能な改善策として、上流ダムにおける取水方法の変更や多摩川本川の取排水系の改善、下水処理水の放流時温度低減策(直接河川に排水せず、高水敷・湿地・地下の伏流水中を経由させる方法や下水熱エネルギーの利用など)の導入を想定し、流域規模での水温制御効果を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度も実施予定の水文気象計測に要する経費として利用する。また、24年度は効率的に研究費の使用ができたことと、水温形成にとって重要な粗過程である河床を通じた水・熱交換現象の理解を深めるために地下水の詳細解析まで含めた検討を行うため、次年度の研究費として利用する。また、研究成果が蓄積されてきていることから、成果発表を積極的に行うための経費としても利用する計画である。
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