水温は水圏の生態系と水質形成にとって最も基本的かつ重要な環境条件である。河川水温に関しては、近年、大気と水面の熱輸送などの物理的メカニズム解明が進展してきたが、今後世界的に都市の拡大や人口増加、温暖化の進行が予想される中で、多様な人間活動が水温にどのような影響を及ぼすのかについての総合的な研究は行われていない。そこで、本研究では人間活動の影響による河川水温上昇が顕著な多摩川を対象に、その温度環境の実態や温度場の形成要因の解明、さらには適正な水環境を取り戻すための管理手法・対策について検討を行う。 平成26年度には、一次元の河道流れと熱輸送のシミュレーションモデルを多摩川中流域に適用し、上流域における取水削減や地下水流出の増加を念頭においた河川の流量増大が水温に及ぼす影響を定量化した。その結果、夏期・冬期ともに流量増大によって水温が低下し、単位の流量増に対しては冬期の日最大水温の低下量が顕著であることが示された。また、平成25年度の検討では地下水と河川水の相互作用や伏流水の存在が水温上昇を抑制している可能性が示唆されたことから、MODFLOWをベースに地下水と河川水の相互作用を定量化できる水循環モデルを構築し、多摩川流域に適用した。流域内の複数地点における地下水位計測結果に基づき解析モデルの信頼性を確認するとともに、地下水と河川水の交換量の解析結果を水収支法で推定した実測値と比較し、夏期と冬期の交換量が概略再現できることを示した。解析により、夏期、是政橋から下流では地下水から河川への流出が支配的であるが、冬期には、交換量自体は小さいものの流出だけでなく涵養も所々で生じていることが示された。降雨浸透水の地下水への涵養が地下水と河川水の交換に及ぼす影響を定量化した結果、河川水温の上昇抑制に対する地下水涵養の重要性が示された。
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