研究課題/領域番号 |
23560621
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 良嗣 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (00133091)
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研究分担者 |
加藤 博和 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (90293646)
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キーワード | 中山間地域 / 国土計画 / QOL / 持続可能性 / 流域圏 / 人口減少・少子高齢化 / 多面的機能 / 撤退・凝集 |
研究概要 |
本研究課題は、全国に先駆けて人口減少・少子高齢化が進み、衰退の一途を辿る可能性が高い中山間地域における居住の必要性や意義を明らかにするとともに、自律的な維持発展を可能とする新たな施策を見出すことを目的としている。 23年度の研究により、維持・管理に伴い半自然資本が発揮する生態系サービスの価値(アウトフロー)とその効果を発揮させるために必要な維持・管理費用(インフロー)の比であるSocial Necessity Of Forest(NOF)指標を開発し、どの森林に人が携わるべきかの優先順位の設定が可能となった。加えて、Quality Of Life(QOL)指標とインフラ維持費用の面から住環境と行政負担のバランスによる集落の評価方法を提案できた。 24年度は以上の成果を活用しながら、多目的遺伝的アルゴリズムを用いて利用を中止(撤退)する地区と促進(凝集)する地区の選定を試みている。住民のQOL向上と市街地維持費の削減を目的とし、中山間/都市地域を区別した最適化(部分最適)と全地域を一括で対象とした最適化(全体最適)を行っている。三重県松阪市・多気町に適用した結果、QOL向上には災害安全性の低い地区、市街地維持費削減には地価が低く人口あたりインフラ設備が過剰な地区、からの撤退が効果的であることを明らかにしている。 また、中山間地域において老朽化した公共施設の設置を仮定し最適化した結果、集落の集約が進み、QOL向上・市街地維持費削減が達成できることを示している。 さらに、NOF指標・QOL指標・インフラ維持費用の3指標を統合した集落の社会的必要性(Social Necessity of Districts: NOD)指標を提案している。それを用いて、存続を断念する集落と集約して残すべき集落を選定することで、持続可能な地域に転換していくための集落再編案決定の方法論を構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定していた、中山間地域に関わるストックとフローの相互作用の検討を踏まえた中山間地域に存在する集落の「選択」「集中」と、中山間地域全体としての持続可能性向上の検討を実施しており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
1)中山間集落と都市との関係を考慮した国土計画(ロードマップ)の提案 23・24年度の研究成果を踏まえ、今後の日本の国土計画において、中山間地域と都市の間でフローの循環を成立可能とする方法論を検討する。まず、地理的・歴史的・文化的に一体感を有する都市と中山間地域の集合体、例えば流域圏などを単位とした計画が必要であることは言うまでもない。その上で、中山間地域を都市に従属する存在と見なす発想から脱却し、双方が得意分野(都市:工業・商業生産活動など、中山間地域:余暇、水源涵養など多面的機能)を担当し、相互に補完し合うことで互いの価値を認め合い、それに対してフローを循環させるという、対等かつ補完的な関係を前提とした計画策定が求められる。 25年度は、QOL 指標を用いてこの関係を表現するとともに、現状の過疎対策型の中山間政策を転換し、中山間地域の価値を都市と遜色なく評価することができる手法について検討する。それを用いて、中山間地域が国土全体に果たしている役割について描き出し、国土計画における位置づけを明確化する。 2)研究成果の取りまとめおよび公表 一連の研究成果について取りまとめ、国内外の学会で発表するとともに、報告書を作成・公表する。また、本研究のフィールドである三重県櫛田川流域や、愛知県内の中山間地域において、住民・行政とともにミニシンポジウムやセミナーを適宜開催し、自治体・地域住民との意見交換を通じて研究の進展と地域への貢献を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内外の学会やシンポジウム・セミナーにおいて研究成果を発表するための旅費・参加費、データ収集や解析を担当する研究員や学生のアルバイト代として主に使用する予定である。
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