研究課題/領域番号 |
23560622
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小林 潔司 京都大学, 経営学研究科, 教授 (50115846)
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研究分担者 |
松島 格也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60303848)
大西 正光 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10402968)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国土計画 / ゲーム理論 / 東アジア / 動学的戦略補完性 / コーディネーション |
研究概要 |
東アジア諸国は,経済的に高度な依存関係にある.すなわち,一国の経済環境は,もはや国内の社会資本の整備状況だけではなく,外国の社会資本と経済活動にも影響を受ける.したがって,一国の国土計画に関する意思決定は,ただ国内の経済活動のみの影響を考慮するだけでは不十分である.国土計画の公表は,外国の経済活動にも影響を与える.さらに,外国の国土計画に関する意思決定にも影響を与えうる.その結果,国土計画の内容やその公表に関する決定は戦略性を有する.平成23年度(初年度)では,最もシンプルな形で戦略的外部性が存在する2国モデルの枠組みから分析を始め,国土計画の策定プロセスにおける戦略的相互関係の構造を明示的に表現し,国土計画が経済統合下における国土計画のコーディネーション機能のメカニズムについて主観ゲームの考え方を援用し分析した.その結果,空港や港湾といった国際ハブ拠点形成に係わる国土計画については,自国にハブ拠点インフラを形成させ,経済活動上の利便性を獲得するために,国の間で利害が対立し競合関係になる.その結果,1)将来の国際交通ネットワーク形成に係わる不確実性が大きく,2)各国で想定されうる将来状態の予想に関する主観的評価の不一致の程度が大きくなるほどは,2国ともハブ拠点形成のための大規模投資を実施するという非効率な国土計画が形成されることが分かった.以上の結論は,政府が国土計画を策定する上で,あらかじめ両国同士のコミュニケーションが禁止されている前提条件に基づいて導かれている.しかし,国土計画を策定する前に政府同士のコミュニケーションが可能であれば,両者の戦略的情報交換を通じて,国土計画の策定プロセスに影響を与えうる.事前のコミュニケーションの機能の明示的分析は,平成24年度に取り組む.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画では,1)東アジア諸国における国土計画策定プロセスに関する資料・情報収集と2)主観ゲームに基づく国土計画コーディネーション機能に関するメカニズムの解明の2点を実施することになっていた.1)に関しては,ウェブサイト等や文献を通じて入手した資料を相当程度の蓄積が完了している.また,国土計画に実際に携わる実務専門家を招聘し,文献のみでは入手不可能な情報についても,蓄積が進んでいる.蓄積した情報については,まだ完全には整理しきれていないが,平成24年度を通じて,今年度構築した理論的枠組みを基礎として,現状分析を行う.2)の国土計画コーディネーション機能に関するメカニズムの解明については,政府間同士のコミュニケーションの機能に関する分析が完成していないという点で,まだ課題を残している.しかし,当初の研究計画では,平成24年度に,国土計画が諸外国の連携戦略に与える影響に関して分析することになっていた.政府同士のコミュニケーションは,必然的に国土計画策定上の連携戦略に係わるものであり,当初の計画通り,平成24年度で扱う課題であると考えられる.以上の理由により,本研究は,平成23年度末現在,おおむねに順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
国土計画が諸外国の連携戦略に与える影響に関する分析(大西):まず,2国モデルの枠組みで,国土計画策定,公表前に行われる戦略的コミュニケーションが,国際的交通インフラに係わる国土計画にどのような影響を与えるかを分析する.国土計画は,周辺諸外国の連携戦略に対しても影響を与える可能性がある.2国モデルでは,このような提携戦略を扱うことができないため,23年度で定式化した2国モデルのフレームを3国モデルに拡張した連携戦略モデルを定式化する.東アジア諸国における国土計画策定過程の現状分析(松島): 国土計画を巡る諸外国の戦略的構造モデルでは,極めて多様な前提条件のパターンが存在しうる.その中で,東アジアの現実を繁栄した国土計画戦略モデルを特定するためには,現実的に妥当性のある前提条件を導く必要がある.平成23年度に収集した情報・資料から妥当と想定される前提条件を導くための現状分析を併せて実施する.東アジア諸国の繁栄に資する国土計画の規範的な策定戦略の提言(小林・松島・大西):最終的な研究成果として,国土計画の戦略的策定を通じて,東アジア全体が繁栄し,すべての国がその繁栄を享受できるようなシナリオを理論的分析により導く.その上で,国土計画の規範的な策定戦略について一つの試案を提示し,実際の国土計画の考え方に対する新たなコンセプトを浸透させていきたいと考える.以上,研究テーマごとに分担者を決めているが,小林はすべての活動に対して,指導的立場として研究活動を牽引する.また,研究分担者の間でも,常に情報交換を行うことで,それぞれの研究活動への洞察についてフィードバックを行う.また,検討された理論モデルについては,国内外の学会において積極的に発表することにより,コメントのフィードバック及び概念の普及を図っていくようにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究は,特段の施設,設備を必要としない.研究資料としては,ゲーム理論に関連した書籍,東アジアの経済統合の動向に関連する文献が必要である.既述の通り,成果発表は学術論文への投稿論文が基本であり,論文の投稿料,別刷りのための経費が必要である.また,学会においても研究成果を継続的に実施する必要があるため,国内・海外出張のための旅費が必要である.特に,東アジア諸国における国土政策に関する実務的,学術的議論の動向についてフォローするために,各国における国際会議への参加を計画している.また,本研究においては,高度なデータ処理は行わないものの,関連文献の収集に当たっては,学生によるアルバイトを活用する予定にしており,そのための謝金が必要となる.また,随時,専門的な知識を有する実務家に対するヒアリングや講演依頼を行うことを予定しているため,専門知識の供与に対する謝金も必要となる.
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