研究課題/領域番号 |
23560641
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
西田 継 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (70293438)
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キーワード | 国際研究者交流 / ネパール / 地下水 / 微生物汚染 / 安定同位体比 |
研究概要 |
安全な水源と適切な衛生設備の不足は世界的な問題である。その解決のため、水系の微生物汚染に対して、一般水質、微生物群集構造解析、安定同位体比分析等の結果を統合し、アジアモンスーン域において時空間的に変化する水汚染の原因を解明する。水汚染が深刻で、代表者らが研究体制を整備しているネパールのカトマンズ盆地をケーススタディとする。特に、現地で生活用水としての依存度が著しく高い地下水を対象とし、健康関連微生物に注目する。本研究の成果として得られる知見と方法論が、モデル解析等により発展、一般化され、他の地域や水汚染現象へ応用されることを期待している。 初年度の雨季前(5月)に行った現地調査で、浅層地下水の水質変化の季節性と地点特異性を優先的に検討する必要を認めたため、特に季節変化の傾向が強く現れる地点を対照地点とともに選定し、23年雨季後半(9月)から24年雨季終了まで、水質と水位の毎月観測を実施した。さらに、23年度の乾季(1月)と24年度の雨季(9月)に現地調査を追加実施した。これらの結果から、雨季は乾季に比べて指標微生物濃度が統計学的に有為に高くなり、期間雨量とも良く対応すること、地下水位の変動が水質に影響を及ぼしている地点は透水性が高いか、井戸の構造が古い可能性があることが分かった。また、一般水質を用いて地下水への下水混入率を試算した。 浅井戸水中の微生物群集構造については、クローンライブラリ法により、初年度に汚染度と多様性が減少する可能性を示したが、平成24年度はさらに詳しい解析を進め、逆に汚染度が低い地点に特徴的な種を発見した。また、DNAマイクロアレイ法により、供試試料の大部分に病原性細菌(合計71種)が存在すること、そのうち約70%がバイオセーフティーレベル2であること、複数地点に共通する属が見られること、家畜の排泄物も一因であることなどを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画は、モデル計算による水移動の概要の把握、同位体分析による地下水環境の可視化、微生物群集構造解析による汚染の全体像の把握、情報の統合による汚染ダイナミズムの解明、であった。 水移動については、23年度に当該地域の汚染が予想以上に非系統的かつ局所的で、既存モデルの適用が困難なことが判明したことから、24年度は計画の一部を柔軟に変更し、微生物汚染への水文学的な影響因子を抽出すること、水質トレーサー解析を実施することとした。これに対しては、現地の連携機関の協力を得て水質と地下水位の変動を継続的に観測するとともに、月平均雨量を入手することで、概要で述べた解析が可能となった。また、一般水質データから一定条件のもとで下水混入率を算出し、比較的狭い範囲で起こる水移動を考慮する手がかりを得た。 微生物群集構造については、遺伝子解析データの精緻化と、病原性と非病原性を含む群集構造の全体を把握することを目指した。これらを特に重要な課題に設定して、雨季の現地調査を実施した。遺伝子試料の前処理では、プロトコルを修正して試料容量を減らして処理数を増加させるとともに、現地で試料を固定することで検出率を格段に向上させることができた。また、浅井戸水に高い確率で病原性細菌が含まれること、それらは極めて多様であること、動物由来の可能性があること、非汚染度の指標となり得る種が存在することなどが明らかとなり、今後の水質管理にとって有効な微生物群集の全体構造に関する情報を整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
同位体分析による地下水環境の可視化を行う。保存試料の分析結果がまとまりつつあるので、速やかにデータ解析の作業に移行する。水文環境の解析のうち、季節性についてはほぼ状況が把握できた。一方で、雨水浸透と地下水水位の影響については一般水質トレーサーでは判別しきれなかったため、河川水浸透も加えて、水の安定同位体比を用いた混合比計算を行う。さらに、この手法を地下水の化学トレーサーの解析にも適用し、例えば窒素変換のプロセスに関する情報を最大限引き出すことで、窒素汚染の影響下にある地下環境での微生物構造の解釈を発展させる。 微生物群集構造については、保存試料の分析を完了させた後、DNAマイクロアレイ解析とクローン解析で得られた病原性細菌の情報を整理する。微生物の発生源として下水、動物糞便、病院等その他を想定し、複数年の雨季データを統合して、地点ごとに特徴を抽出する。また、地球化学プロセス関連についても解析を行い、特に硝化と脱窒に関わる数種の微生物を分類、定量する。これにより、地下における水、物質、微生物の流れと分布のパターンが全体として整合しているか検証する。 申請時の計画には含まれていなかったが、研究を進める中で重要と思われる事項が浮かび上がった。一つは土地利用であり、当初は当該地域を一様に都市部と見なしていたが、地区ごとの人口、旧市街と新興住宅地の下水施設の状態の差などのより詳細な視点を本研究の解析に導入するのが有効であると思われる。もう一つは水利用であり、微生物学的に汚染された水が、地域住民に利用される過程でどのような健康影響をもたらすのかを調べることは、やはり本研究の成果を発展される上で重要と考えられる。 最終年度は、以上の水文環境と微生物群集構造の結合による汚染ダイナミクスの解明と、新たに加えた解析を実施し、今後の汚染井戸の管理に向けて有効な情報を提供する。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度であるため、主に成果発表のための旅費に充てる。本研究成果を広くかつ実用的に活用するため、地下水または微生物研究に関連する研究者による研究集会を開く予定があり、これに必要な経費が生ずる可能性がある。また、保存試料の分析の進捗状況に応じて、遺伝子解析用試薬等の消耗品を購入する。
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