安全な水源と適切な衛生設備の不足は世界的な問題である。その解決のため、水系の微生物汚染に対して、一般水質、微生物群集構造解析、安定同位体比分析等の結果を統合し、アジアモンスーン域において時空間的に変化する水汚染の原因を解明する。水汚染が深刻で、代表者らが研究体制を整備しているネパールのカトマンズ盆地をケーススタディとする。特に、現地で生活用水としての依存度が著しく高い浅層地下水を対象とし、健康関連微生物に注目する。本研究の成果として得られる知見と方法論が、モデル解析等により発展 、一般化され、他の地域や水汚染現象へ応用されることを期待している。 計画では、地下水、雨水、河川水等の水文・水質に関する1次データと、気象、地形、土地利用等の2次データを主に海外現地調査により取得し、地下水流動と微生物汚染の情報を抽出することとしていた。これまでに、雨水浸透や地下水位上昇等の水文学的変化が微生物汚染の引き金になること、複数地点の地下水に病原性微生物が混入しており、家畜排泄物も一因であることが明らかになった。最終年度は、取得データを詳細かつ統合的に解析するため、地理的条件と水利用形態の情報を加味して、汚染機構と影響のモデル化を試みた。その結果、人口と下水施設の老朽化が重なった地区に汚染が偏る可能性を地理統計学的に推定した。また、地下水汚染に加えて、慢性的な水不足と断続的な給水、水道水の貯蔵、これらが引き起こす水源確保の不安定さが、下痢症発症と関連することを医学統計学的に示した。従って、いわゆる見かけ上の衛生施設整備率の向上は健康影響の低減に必ずしも直結せず、短期的には適切な衛生行動、中期的には水源安全性の分類、長期的には下水施設改修など、地域の状況を理解した水管理計画が重要であると結論づけた。
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