研究課題/領域番号 |
23560652
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
浦瀬 太郎 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (60272366)
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研究分担者 |
多田 雄一 東京工科大学, 応用生物学部, 教授 (80409789)
西野 智彦 東京工科大学, 応用生物学部, 講師 (10409790)
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キーワード | 抗生物質 / 薬剤耐性 / 河川環境 / 大腸菌 / シロイヌナズナ |
研究概要 |
薬剤耐性菌の存在実態調査においては,プラスミドなどで耐性の形質をやり取りし易い性質を持つグラム陰性菌の代表として3000株以上の大腸菌を選定し,14剤の薬剤に対する耐性を調査したところ,最低1剤に対して耐性を持つ耐性菌の割合は地点ごとに0%~32.5%であった。山間部の日原川や秋川,高尾山においても,少ないながら薬剤耐性菌は存在していた。しかし,前年度の検討において,上流の山間部で検出される耐性菌はアンピシリンやテトラサイクリンなど古典的な抗生物質のみに耐性であることが示されたため,古典的な抗生物質を除外し,人用の抗生物質(現在も人の疾病治療に用いられている第3世代と第4世代のセファロスポリン系,アミノグリコシド系,フルオロキノロン系)に限定して耐性菌比率を算出すると,耐性菌比率が河川の流下とともに増加することが見出された。さらに,これらの比較的新しい抗生物質に対する耐性菌の耐性スペクトルを検討したところ,スーパー耐性菌と呼ばれるタイプのカルバペネム系抗生物質に対する耐性菌も3000株中,数株見出された。 植物を用いた医薬品の分解について,P450類似遺伝子を導入したシロイヌナズナにおいて検討した。選択的に医薬品を吸収することはないが,いったん吸収した医薬品の植物体内での分解には,導入した遺伝子ごとに若干の差が見られた。 抗生物質の藻類への毒性を検討したところ,レボフロキサシンなどフルオロキノロン系の薬剤では,増殖阻害濃度以下の低濃度でも細胞の膨張が,ゲンタマイシンでは細胞の委縮が見られた。このことは,フルオロキノロン剤がDNA合成阻害剤,ゲンタマイシンがタンパク質合成阻害剤であることで説明ができた。硝化菌への抗生物質の毒性データも蓄積した。 魚類の腸管に存在する抗生物質耐性菌について菌種同定を試みたところ,大腸菌よりもAeromonasが多いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,研究計画調書に設定した課題は,次のとおりである。1. 医薬品分解細菌の単離,共代謝による分解,分解スペクトラムの取得, 2. P450強化植物による自然環境を模擬した廃水処理システムの検討, 3. グループ別薬理活性の低減効果と環境との関連の明確化, 4. 耐性遺伝子の廃水処理過程での挙動, 5. 薬剤耐性の細菌間の環境中伝達リスクの評価,である。 1.については抗生物質に対する分解スペクトルのデータ取得を行った。2.については受動的に吸収されたものがどこまで分解するかに焦点を当てる計画に変更した。3.については硝化活性,藻類への毒性の低減の観点からデータを集積中で,学会発表,論文執筆を2013年中にできる見通しである。4.については,単離した大腸菌からコンピテントセルに対する耐性遺伝子の伝達試験を行ったが,伝達したとみられるケースはほとんどなかった。5.については,大腸菌でデータを得ることはできなかったが,菌種を変更して検討を継続中である。 以上,1.はデータ蓄積中,2.および4.では研究の進捗に伴い,いくつかの新たな視点が必要となり,研究の方向を修正した。3.および5.について,蓄積したデータを和文誌へ投稿し,論文発表を行った。さらにそのデータを整理した結果を英文誌へ投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を踏まえ,若干の計画の修正を行う。修正後の主たる研究計画は以下のとおりである。 遺伝子操作植物による医薬品分解については,細菌系では分解のできないレボフロキサシン,クロフィブリック酸,ジクロフェナクなどを対象に受動吸水した医薬品量あたりの分解率で評価する系にて実験を継続する。医薬品による硝化抑制試験では,評価の基準となるべき純菌による検討を追加する。また,環境サンプルで耐性硝化菌を見出した場合には,菌種同定を行う。また,増殖阻害濃度以下における毒性発現を藍藻と混合培養藻類系について継続して実施する。環境中の抗生物質耐性菌の調査では,菌種を絞らず耐性菌を検索し,その後,特殊な耐性パターンを持つ菌について16S rRNAによる菌種同定を行う方法でのデータ蓄積を行う。カルバペネム系の抗生物質にも耐性を持つスーパー耐性菌の環境中の存在調査を行う。 以上の研究でフィールド研究が必要となる部分については,これまで通り,多摩川流域(高尾山,秋川,日原川,本流[上流から下流])をフィールドとして行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度についても消耗品を中心とし,学会発表などのための旅費や研究に関連した研究補助のための謝金を計上している。 西野准教授使用分を中心に50万円程度の繰り越しが生じているが,これは購入を予定していた低温インキュベーターの経費が他で賄われることになったためである。2013年度は,耐性菌関連で菌種の同定などのために,予定額以上の支出が見込まれている。 消耗品費の使用目的は,選択培地,硝化活性試験やGC/MS分析関連消耗品の購入,釣菌した細菌の16S rRNA配列決定などである。 よって,本年度の繰越金に最終年度交付予定額を加えた全額を2013年度は使用予定である。
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