研究課題/領域番号 |
23560663
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寒野 善博 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (10378812)
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キーワード | 接触問題 / 弾塑性問題 / 凸最適化問題 / 凸解析 / 半正定値計画 / 整数計画 / 摩擦 / 張力構造 |
研究概要 |
この研究の主題である非滑力学 (Nonsmooth Mechanics) とは,構造物の種々の非線形現象を理論的・数値的に解析するための強力な方法論である.この課題では,建築構造物の解析の現場で困難とされてきた強い非線形性を伴う諸問題に改めて注目し,非滑力学の立場から捉えなおすことで,より適切な定式化と頑健な数値解析法を開発することにある. 平成24年度は,主に二つの方向の研究を行った.つまり,(1) 前年度の成果をさらに発展させることによるテンセグリティの新しい設計法の開発と,(2) 弾塑性問題に対する非滑力学からのアプローチである. このうち (1) で扱うテンセグリティは特殊な張力構造物であるが,張力構造物は非滑力学の主要な対象の一つである.テンセグリティの特殊性として,圧縮材の不連続性と初期張力による安定性(かつ.初期張力のない状態での不安定性)の二つがある.これらの両方の条件を厳密に満たすテンセグリティを新たに設計することは,従来は困難であった.本研究では,テンセグリティの設計問題が整数計画の枠組で扱えることを明らかにし,さらに形状の対称性の条件を組み込むことにも成功した.この定式化により,一つの初期解から,さまざまな対称性をもつ新しいテンセグリティを次々に生成できることを明らかにした. 次に,(2) で扱う弾塑性問題は,非滑力学の主題としては古典的なものである.しかし,半正定値計画などの新しい数理計画を導入することで,古典的な問題を新しい切り口で捉えることに成功した.具体的には,von Misesの降伏条件の下での準静的な弾塑性問題に対して,凸計画に基づくウォーム・スタート法を開発した.また,建築骨組の塑性極限解析において,いくつかの梁や柱が損傷を受けた際の崩壊荷重係数を求める厳密解法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
建築構造物の中でも設計が極めて難しいテンセグリティを具体的な事例として取り上げ,その設計問題を整数計画として解くという数理手法を開発した.これは,建築構造力学に内在する非線形問題を掘り起こして非滑力学の考え方を適用することで解決するという事例の一つであり,本課題の中心的な成果の一つである.特に,生成される形状の対称性を操作できることが本手法の特徴の一つである.対称性は建築構造物の美しさと密接に関係するため,非滑力学的な数理手法を用いて建築に固有の設計問題を解決するという本課題の目的によく合致している. 弾塑性体の準静的な釣合解析は古典的な問題であるが,近年の新しい成果である半正定値計画を自然に応用できることを明らかにしたことは非滑力学の新しい展開を期待させるものである.建築骨組の部材消失における塑性極限解析は,建築構造物のロバスト性や冗長性の評価と密接に関係する問題であり,この問題を厳密に解ける数値手法はロバストな構造物のを設計するために有用である.従って,非滑力学の成果を建築構造物の設計に還元するという本課題の目的に合致するものである.
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今後の研究の推進方策 |
ケーブルや弾塑性問題のみに限らず,建築構造物の解析・設計に現れる種々の非線形問題への展開をめざす.また,テンセグリティの設計法の開発で得られた知見をもとに,建築骨組におけるダンパーの最適配置問題など,一見別分野であるが同じ数理構造をもつ問題への展開を図る.さらに,それらの応用として,特別な機能をもつ構造物の設計法を開発する.
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次年度の研究費の使用計画 |
非滑力学が対象とする具体的な物理現象は,多岐にわたるため,広範囲の文献調査が必要であり,計算力学および数理工学関連書籍の購入費が必要である.対象分野が多岐にわたることは,国内外の関連研究者と会い,議論および情報収集を行うことの重要性を意味 している.このために,国内および国外の旅費が必要である.成果として得られた構造物の設計法の有効性を検証するために,必要に応じて,模型を製作してその挙動を確認することも検討する.
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