研究課題/領域番号 |
23560665
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
楠 浩一 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (00292748)
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研究分担者 |
田才 晃 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 教授 (40155057)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 応急危険度判定 / 地盤と建物の相互作用 / ロッキング挙動 / ヘルスモニタリング / 等価線形化法 / 加速度計 / 振動台実験 |
研究概要 |
横浜国立大学建築学棟および大学院棟に設置した加速度計により、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震での建物の記録を計測することができた。同地震以降、計測された余震を含めた地震動の回数は300回を超え、それらのデータを有効かつ安全に保存するために、サーバー用PCの更新や、一部センサーの入れ替えを実施した。さらに、実観測建物を2棟増やし、合計4棟とした。23年度には、建物基部に設置した4台の加速度計から、建物のロッキング挙動の抽出を試み、東北地方太平洋沖地震の余震に対して、計測できる可能性を示した。また、建物と周辺地盤の間には相互作用が存在すると考えられる。建物基部で計測した加速度は、建物に入力した地震動ではなく、建物基部のロッキング・スウェイ応答を含めた「応答値」である可能性がある。その場合は、建物基部で観測された加速度をもとに要求曲線(応答スペクトル)を計算することは、応答値を入力とした応答値を計算していることとなり、相互作用系の卓越周期部分に大きな応答値が発生する結果となることが予想される。これまでに計測された建物基部の加速度による要求曲線では、同様の傾向がみられる。そこで、建物を1自由度系として、そこにロッキングおよびスウェイを考慮した3自由度モデルでの基部加速度の影響を解析的に検討し、スウェイ応答が大きい場合に、同様の傾向があることを確認した。現在、建物周辺に埋設した、自由地盤面での加速度記録も同時に得られており、自由地盤と建物基部での加速度および要求曲線の差を検討するために、データ整理を進めている。上記の数値的検討結果をもとに、24年度に実施する予定の振動台実験のための試験体を設計し、ロッキングを模擬するばね部分の設計及び作成を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画時には、東北地方太平洋沖地震および一連の余震の発生を予想していなかったため、ロッキングの挙動評価に必要な、有意なデータ群が多数計測することができた。異なる地震発生地域ごとに、異なる要求曲線の特徴を得ることができた。また、東北地方太平洋沖地震の発生に伴い、さらに実観測建物を2棟増やし、計測を行うことで、建物規模や形式による違いを検討できる可能性が増えた。なお、23年度はそれら新しく計測する建物の計測システムの整備およびデータ処理方法の検討も併せて実施し、安定したデータ計測を続けている。多くの実観測記録を得たことにより、建物の応答に与える地盤との相互作用の影響を検討することができ、横浜国立大学建築学棟を参考に、建物基部のロッキング挙動と、それに伴う建物基部での鉛直方向の応答値を検討することができた。23年度の計測成果から、試験体に付与するロッキング剛性を横浜国立大学建築学棟のロッキング剛性程度と仮定して、そのロッキング挙動を再現するための試験装置の検討を行い、試験体の設計を完了した。当初は試験体の作成をすべて24年度に実施する予定であったが、ロッキング挙動の再現に必要な鋼製ばねの設計を実施し、その試作品を作成した。これにより、24年度は比較的早い段階で振動台実験を実施することができ、当初計画の研究スケジュールを上回るペースで進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、ロッキング挙動に着目し、杭部での鉛直方向の降伏を再現した全体曲げ破壊形の試験体を作成し、非線形領域を含めたロッキング挙動の分離の可能性について検討を行う。実建物を用いた観測では、容易に非線形領域まで検討することが困難であり、被災程度の大きい領域まで含めた検討には、振動台実験が不可欠である。試験体は、鋼製平面架構で、最上部と脚部にそれぞれ2つの加速度計を設置する。試験体の脚部は、当初はプレートを介して振動台にボルト止めし、このプレートが面外に降伏することにより、非線形のロッキング挙動を発揮することを計画していた。本システムが非線形で有効にロッキング挙動を示すことは、既往の研究でも示されており、かつ比較的安価にできる。しかし、ロッキング剛性を事前に正しく 評価することが極めて難しいため、平成23年度に鋼製のばねを作成し、そのばねを用いて、ロッキング挙動を再現する。最上部および脚部の2つの加速度計から求めた転倒モーメント、および脚部回転角を計算し、別途変位計により計測する脚部回転角と比較することにより、ロッキング挙動の分離方法を検討する。なお、本研究では第一段階として、上部構造の曲げ変形が大きくならない建物を対象としている。試験体としては、ロッキングのみを発生する試験体、上部構造が降伏し、ロッキング挙動も生じる試験体、浮き上がりが生じる試験体、および基礎固定の試験体である。ロッキング応答による鉛直変形は極めて小さいため、その極小応答を計測するために、新しい加速度計が必要である。また、加速度記録を2階積分した応答変位の制度を検討するためには、比較的大きな変形領域まで精度よく計測できる変位計が必要である。振動台実験結果から、作成した性能曲線からロッキング挙動の影響を取り除く方法を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に作成した鋼製ばね、および既に保有している鋼製ブロック、ピン支承を用いてロッキング試験体を作成するためには、柱および梁部分に相当する鋼板を作成し、それらを鋼製ブロックとボルト接合する必要がある。また、上部構造が降伏しない試験体では、上部構造の各層にブレースを配する必要がある。平成24年度には、まず振動台実験用の試験体の部材を作成する。試験体のロッキングによる基部での鉛直変形の大きさは、実建物に生じた鉛直変形と同程度となるように設計されている。その鉛直変形を加速度で計測するため、現在保有している加速度計より後に開発した加速度計を新たに購入する。また、本装置は変形を加速度計測値を2階積分することによって求める。これにより、計測装置の設置を極めて簡易にしており、かつ建物自体の使用性を極力損なわないようにしている。しかし、加速度記録には微小なノイズが含まれており、その影響で積分した変位はノイズに埋もれてしまうことが知られている。本研究ではノイズの影響に対処するため、Wavelet変換の技術を応用している。この技術は、建物の振動数とは異なるノイズを簡便に除去できる半面、永久変位(塑性変位)を精度よく計測できないことが知られている。そこで、計算変位の精度検討には、変位の計測が必要である。今回の振動台実験では、計測は振動台外から行うことを予定している。よって、計測変位には振動台自体の変位分も含まれる。その為、比較的大きな変形領域まで精度よく計測できる変位計を購入する。実験実施および実験結果の整理のため、謝金を拠出する。また、実験とは別に、日々、実地震により実建物の観測記録が蓄積されている。その蓄積データを整理するために、謝金を拠出する。
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