研究課題/領域番号 |
23560666
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
松本 由香 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (70313476)
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キーワード | 低降伏点鋼 / ダンパー / 硬さ / 断面形状 / 損傷度 |
研究概要 |
地震入力エネルギーをダンパーに集中させる構造形式(制振構造)は、柱梁などの主要骨組の損傷を抑えることができ、強震を受けた建物の継続使用や早期復旧が期待できる。このような構造形式では、損傷したダンパーの交換の要不要を適切に判定する技術が求められる。本研究では、建物棟数が多いこと、被災後の検査が比較的容易であることから、鉄鋼系工業化住宅に用いられる低降伏点鋼ダンパーを対象とし、ダンパーの塑性ひずみによる損傷度や残余変形性能の推定方法について検討を行った。 平成23年は、建築構造用低降伏点鋼SSHDについて実験を行い、鋼材の損傷度や残余変形性能と硬さ変化量の間に相関があること、ただし両者には比較的大きなばらつきがみられることが分かった。今年度はSSHDに加えてLYP225についても実験を行い、前述の知見の適用性について検証した。 LYP225の圧延鋼板を用いて溶接組立梁を製作し、梁の繰り返し載荷試験を行って鋼材に損傷を与えた後、鋼材の硬さ変化量と残余変形性能の関係を調査した。LYP225材の実験結果はSN400材などの普通鋼の結果に近く、SSHDに比べてばらつきが小さかった。 さらに、SSHD材をダンパーに加工し、実大耐力パネルにダンパーを組み込み、耐力パネルの繰り返しせん断載荷実験を行った。この試験により、ダンパーの損傷が進行することによって、硬さのみならずダンパーの断面形状が変化することが分かった。断面形状の尺度としてダンパーのフランジ内法に注目したところ、ダンパーの損傷度はフランジ内法寸法と強い相関を示し、載荷パターンや残留変形にほとんど依存しないことが分かった。従って、硬さ変化量と損傷度の間に比較的大きなばらつきを示したSSHD材については、断面形状から損傷度を推定することができ、実用に耐えうる損傷度推定手段を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年~24年に予定していた実大部材実験、硬さ試験および素材引張試験はいずれも完了し、得られた実験結果も良好であった。 ダンパー用鋼材として一般的なLYP225について、損傷度および残余変形性能が硬さ変化量と相関を示すことが確認でき、そのばらつきの程度は普通鋼(SN400材,SN490材など)と同等であった。このことから、降伏強さ200MPaクラスの鋼材であれば、硬さ変化量を計測することによって鋼材の損傷度が概ね推定できる見込みである。 損傷度と硬さ変化量の間に比較的大きなばらつきがみられたSSHDについては、工業化住宅用ダンパーとしての使用を想定すると、ダンパーの損傷度と断面形状の間に強い相関がみられ、この傾向は載荷パターンや振幅の偏り、残留変形などに依存しないことが確認できた。従って、今年度の実験で検討した工業化住宅用鋼材ダンパーについては、硬さ計測に替わる損傷度推定手段を見出すことができ、概ね研究目標を達成することができた。対象とするダンパーの種類は限定的であるが、使用されている建物棟数は少なくないので、広く活用されることが期待できる知見である。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、工業化住宅用ダンパーに関する今年度の研究成果は、それ自体として多くの住宅に適用できると思われるが、同様の手法が適用可能な部材を探索し、より多くの建物の損傷度が推定できるようにすることが望ましい。今後は、今年度の実験に用いたダンパーに近い応力状態が生じる部材など、断面形状による損傷度推定方法が適用可能な部材を探索するため、有限要素解析による予備解析や文献調査、実務者へのヒアリングなどによる検討を行う。さらに、損傷度と硬さ変化量の関係についてもさらなるデータインテグレーションを図るため、載荷実験によって損傷を受けた鋼材を入手し、随時硬さ試験と引張破断試験を実施する。 これらの検討と並行して、平成24年までの研究成果をまとめて論文を執筆し、学術誌への投稿するとともに学会にて口頭発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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