研究課題/領域番号 |
23560670
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
上林 宏敏 京都大学, 原子炉実験所, 准教授 (30300312)
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研究分担者 |
新井 洋 国土技術政策総合研究所, 建築研究部, 主任研究官 (40302947)
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キーワード | 地震防災 / 強震動予測 / 地下構造 / 微動 / 水平上下スペクトル比 / 不整形地盤 / 差分法 / 逆解析 |
研究概要 |
大阪堆積盆地平野部における4日間の連続微動観測を実施し,台風が太平洋側から日本海側へ移動する間の微動水平/上下スペクトル比(HVSR)の時間変動を調べた.HVSRのピーク周波数とピーク値の変動は,それぞれ,最大15%と70%見られた.FDMを用いた大阪堆積盆地の脈動シミュレーションモデルを用いて,上記の観測結果を定性的に再現することができた. 昨年度は大阪平野において観測から得られた周期1秒以上の微動のHVSRを3次元盆地構造モデルにおけるFDMを用いたシミュレーションによって再現した.その結果,平行成層領域のみならず不規則構造領域においてもHVSR のピーク周波数とスペクトル形状が再現できた。さらに,不規則構造領域における観測やFDM によるピーク周波数は観測点直下の1次元構造に基づくレイリー波基本モードピーク周波数とは異なることを示した。これらは地下構造の不規則性がピーク周波数のみならず,スペクトル形状へも強く影響することを示唆している.そこで,当該年度はFDM によるHVSRを観測結果と見なし,そのターゲットHVSRへのフィッティング (レイリー波及びラブ波の高次モードを含む)によって1次元速度構造を逆解析により推定し,正解値(FDM の計算に用いたモデル)との基盤面深度の誤差と地下構造の不規則性との関係について調べた。結果として,水平成層と見なせる領域では逆解析から求めた速度構造および,そのHVSRは正解値と良く一致したが,盆地端部などの基盤面形状が大きく変化する不規則領域では,水平成層構造を仮定したHVSRの逆解析から基盤深度を適切に推定できない場合の多いこと,また,逆解析で適合度の高い結果が得られても,推定基盤深度に大きな誤差が含まれる場合のあることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで,微動HVSRは震源の分布にあまり依存せず,強い定常性があると考えられてきた.しかしながら,1~10秒の帯域の微動は震源が盆地外の波浪に起因するため,かつ波長が短周期微動に比べて長いため,大阪堆積盆地のような不規則な基盤構造の影響により波高分布の違いがそのピーク値のみならずピーク周波数も影響を受けることが分かった.当該年度はこの事象を観測及び数値シミュレーションによって調査する必要が生じた.そのため,広帯域(1秒以下の微動)を対象とした微動HVSRを用いた不規則地下構造のモデル化とシミュレーションを実施することが困難であった.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は,不規則構造(大阪堆積盆地)モデルを伝播する微動をFDMによって計算し,それを観測記録と見なし,HVSRへの水平成層構造仮定に基づく,スペクトル形状のフィッティングから観測点直下の速度構造推定を実施し,実(FDM計算に用いた)モデルとの比較を行った.スペクトルフィッティングに際して,周波数帯域による重み係数を設定していなかったため,深部地下構造の影響を受ける1次ピーク周波数の相違が生じていた.そこで,来年度はフィッティングのアルゴリズムを変更し,低周波数での重み係数やピーク周波数のジョイントインバージョンなどを実施する予定である. 上記のインバージョンアルゴリズムを改善した上で,不規則構造領域における水平成層構造仮定に基づくスペクトルフィッティングによる速度構造推定誤差を評価し,短周期の微動HVSRへの同手法の適用限界等について調べる.
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次年度の研究費の使用計画 |
既年度までの研究成果をピアレビュー付きの学会誌等へ投稿する予定である.投稿料等の予算を見込む.既年度に実施したスペクトルフィッティング対象の地点(55地点)を増やし,大阪平野におけるスペクトルフィッティング及び推定速度構造の誤差分布をマッピングし,不規則構造の度合いとの比較を行う.多地点の逆解析を行うための計算機の増強を行う.そのための予算を見込む.短周期のHVSRの計算を行うため,大阪平野の沖積層のモデル化を行う.これらの人的な費用と計算環境の増強を行うための予算を見込む.
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