研究課題/領域番号 |
23560678
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
吉中 進 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70401271)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 構造制御 / TMD |
研究概要 |
これまで実施した研究では,TMDの最大のメリットである共振応答低減効果の活用を前提として,同調比と減衰比に調和外力に対する最適化パラメータを用いた場合の最適初期変位の設計式を提案した。この場合は,固有振動数の異なる2つのモードが重畳して生じる"うなり"の位相をTMDの初期変位でコントロールすることにより,インパルス応答初期における制振効果を向上させることができた。しかし,外力載荷直後の応答と,"うなり"の固有周期に対応する一定の時間経過後の応答の大きさはトレードオフの関係にあるため,初期変位を大きくすると後期の応答は逆に大きくなるという課題が生じた。すなわち,制振効果の向上には限界があるということである。 そこで本年度は,自由振動最適化パラメータよりも大きいTMD減衰比を与えた場合,初期変位をある特定の値に設定することで振動モードが選択可能となる原理に基づく設計式を新たに提案し,数値解析によりインパルス外力下における制振効果を確認した。具体的には,TMDを設置することで生じた2つの振動モードのうち大きいモード減衰比を持つ方のモードで振動させることにより,これまで提案した設計式よりも高い制振効果を得ることができるということである。 さらに,これまでの研究では,主としてインパルス外力を対象として検討を行ったが,本年度は調和外力および地震力に対する制振効果の検討も実施した。その結果,調和外力が作用した共振時にはインパルス外力で用いた初期変位の約2倍のときに最も効果が高いことが分かった。またTMDの初期変位の解放時刻として,応答速度が極大(応答変位と応答加速度が0)のときに解放した場合が最も効果が高いことが分かった。以上の検討結果を実地震波に適用して制振効果を確認したところ,想定した制振効果が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では,研究実績の概要で述べた2つの設計式のうち,これまでの研究で提案した設計式を用いる予定であった。しかし本年度に新しく提案した設計式の方が,制振効果が高く,設計パラメータの変動に対するロバスト性が高いことが確認され,建築構造物への適用性により優れていると考えられる。よって今後の研究では,本年度に新たに提案した設計式を使用する予定である。以上に述べたように,本年度は新たに提案した設計式の確立に力を注いだため,TMDの空間配置や通常のTMDとの複合に関する研究項目には多少の計画の遅れが存在している。しかし,全体の研究計画としては,当初想定した以上の結果が得られていること,及び,平成25年度に実施する予定であった正弦波外力や地震力に対する検討も先行して進めていることから,おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは最も基本となる1自由度の主振動系モデルを用いて,設計式の提案と制振効果の確認を実施してきた。今後の計画としては,多自由度系モデルにおける設計法の確立,特に空間構造に初期変位付与型TMDを適用する際のTMDの設計法,空間配置法に関する研究に力を入れて進めていきたいと考えている。来年度に簡易モデルを用いた振動実験を予定していることから,本年度は実験の前提となる解析的検討及び実験計画の立案を主として実施する予定である。簡易モデルとしてはアーチモデルを予定している。初期変位付与型TMDの小型模型は以前に簡易版を作成して実験を行ったが,改良を加えて精度の向上を図る予定である。さらに,当初の計画としては空間構造を適用目標として設定していたが,本手法は空間構造のみでなく,一般の重層構造にも十分に適用可能であることから,重層構造への適用方法も考えていく。さらに,制振装置の機構の具体的なイメージも作成する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費としては,来年度に振動実験を実施するための試験体の製作費が主なものとなる。さらにレーザー変位計など実験の実施に必要な計測機器類を購入する。その他の費用としては,建築学会大会での発表のための旅費,及び関連するセミナーへの参加費,印刷費(トナー代等)である。
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