研究課題/領域番号 |
23560678
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
吉中 進 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70401271)
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キーワード | 振動制御 / TMD / アーチモデル |
研究概要 |
昨年度は、TMDの初期変位を適切な値に設定することによって、モード減衰比の高い2次モード単体で振動させることが可能となる原理に着目し、インパルス外力を対象とした場合における設計式を提案し、1自由度系を対象とした場合における制振効果を解析的に確認した。さらに共振時における最適初期変位の設計式を提案した。 本年度は、「水平入力によっても上下方向の応答が生じる」、「高次モードを含む固有周期の近接した複数のモードが卓越しやすい」という重層骨組構造と異なる空間構造特有の振動性状を有するアーチモデルを対象として、提案した設計式を用いた場合の制振効果を、解析と実験の両面から検討した。 解析的検討では、スパン40m、ライズ7mのアーチモデルを対象として、①TMDの空間配置が制振効果に及ぼす影響、②複数のモードが励起する場合における初期変位の設定法、③地震外力を受けた場合の制振効果、に関する検討を行った。①においては、TMDの設置によるモード形状の変化に着目する必要があることが分かった。②においては、複数のモードが励起する場合に1自由度系を対象とした設計式をそのまま適用することは不可能であるため、応答速度をモード分解する方法、自由振動応答の理論解より導いた初期変位解放条件式を用いた方法の2つの手法を提案し、その効果を確認した。③においては、地震外力を対象とした場合もインパルス外力の場合と同様に、初期変位の解放直後から十分な制振効果が得られることを確認した。今回はアーチモデルを対象としたが、ここで構築した設計手法は他の空間構造、またはビル等の重層骨組構造へも適用が可能である。 実験的検討では、スパンが1.5m、厚さ2.3mmの鋼板でできたアーチモデルを製作し、初期変位付与型TMDの試作モデルを製作した。インパルスハンマーを用いた打撃試験を行った結果、解析と同程度の制振効果が得られることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、次年度が最終年度であり、本年度実施したアーチモデルを用いた実験の精度を高め、実験結果と考察をまとめることにより、当初の研究計画はほぼ達成可能であると考えている。但し、当初の予定では、制御対象を空間構造にほぼ限定していた形であったが、本手法は空間構造のみならず一般のビル等における重層骨組構造にも適用が可能であり、従来のTMDよりも制振効果が高い全く異なるタイプのTMDを提案可能であると考えている。そのためには適用方法や設計法の提案のみでなく、基礎原理を再構築する必要があり、今後、重点的に研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、試作した初期変位付与型TMDモデルの精度を向上させるために、構成部材の見直しとダンパーの改良を行う。特にダンパーの精度を向上させるために、非接触型の磁気ダンパーを用いることを予定している。その後、実験結果と解析結果の整合性を確認する。最後に、将来的に実構造へ適用するために必要な課題の抽出を行い、まとめを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
初期変位付与型TMD模型の第一段階の試作費用に関して、完成状態を想定した当初の予想よりも出費が少なく抑えられたため。及び、日本建築学会大会(北海道)での発表における出張旅費を他の費用で支払うなど、可能な限り出費を抑える努力をしたため。 初期変位付与型TMD模型の精度向上のための改良費、取得データを増やすための計測機器類の購入に用いる予定である。
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