研究課題/領域番号 |
23560685
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研究機関 | 鳥取環境大学 |
研究代表者 |
中治 弘行 鳥取環境大学, 環境情報学部, 准教授 (80314095)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 木造軸組架構 / 伝統大工技術 / 柱根継ぎ |
研究概要 |
伝統的構法木造建物を維持管理していく上で、大規模改修の際には、補修の一環として構造部材の全部または一部交換が行われることがある。構造部材の一部交換の場合、柱では根継ぎとされることが多い。伝統大工技術により補修された木造軸組架構の性能評価実験として、平成23年度には差し鴨居を抵抗要素に持つ柱間隔1820mmの木造軸組架構の性能評価実験を実施した。無補修として柱根継ぎのないものを1体、補修された木造軸組を想定して金輪継ぎおよび尻ばさみ継ぎで柱根継ぎしたものを各1体、計3体について実験を行った。根継ぎ位置は、土台より500mm上方が継ぎ手の中間部となるようにした。また、継手長さを300mmとした。差し鴨居と柱の仕口は雇いほぞに鼻栓とした。同じ変形を2度経験するように見かけの変形角が1/480~1/7radまで徐々に増加させる変形制御の正負繰り返し面内せん断加力を行い、荷重と変形の関係ならびに継ぎ手仕口での変位・ひずみを計測した。鋼製おもりにより約19kNの鉛直荷重を作用させた。3体の実験結果から、おもりによるPΔ効果を除去した荷重変形関係を比較すると、最大耐力は、金輪継ぎを用いた試験体が3.91kN、尻ばさみ継ぎを用いた試験体が4.38kN、柱根継ぎのない試験体が3.25kNであった。補強の意図ではなかったが、根継ぎをした方が、耐力が高まる結果となった。また、柱根継ぎのない試験体では最大耐力経験後に耐力低下が認められるが、柱根継ぎのある試験体では2体とも最大耐力以後の耐力低下がごくわずかであった。柱継ぎ手部分にはほとんど損傷を生じておらず、地震力や風力に対する水平力抵抗要素としての木造軸組架構の軸部に継ぎ手があっても大きな問題とはならないだろうと考えられる。本研究成果は、2012年度日本建築学会大会(東海)に「柱根継ぎのある木造軸組の面内せん断加力実験」として発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
補修方法の一つとして柱継ぎ手を用いた試験体による実験を行う予定であった。当初は、金輪継ぎ、尻ばさみ継ぎ、かいの口継ぎ、十字目違い継ぎの4種類の方法を想定していたが、試験体仕様を決定する過程で地元の大工とも相談の結果、一般的な住宅でも適用可能な方法として、まずは金輪継ぎと尻ばさみ継ぎの2種類について実験を行った。継ぎ手補修により、継ぎ手のない木造軸組架構と同等の性能を確保できるかどうかを確認する実験であったが、継ぎ手のある方が耐力と変形性能が向上する、また、見かけの変形角が1/7rad近くなっても継ぎ手部分に重大な損傷が発生しないという結果を得ることができた。これらの実験結果から、継ぎ手の位置や方向(継ぎ手への加力方向)の影響という実験パラメータの重要性が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、引き続き、補修された軸組架構の実大実験を行うほか、限界耐力計算で想定されている「損傷限界」である1/120radより大きい1/60~1/45rad程度の変形をして損傷を受けたあとに直立に戻し、接合部の緩みを補修、壁土を補修あるいは塗り直しされた「補修土塗り壁」の構造性能回復に関する評価実験を予定している。平成23年度には実施しなかった、文化財の補修などで用いられることもあるかいの口継ぎと十字目違い継ぎについての試験体仕様、金輪継ぎと尻ばさみ継ぎの向きや接合位置を変えたものについての試験体仕様、土塗り壁の試験体仕様等、検討を進めている。5月中にこれら詳細を決定し、業者に発注、夏期休業を迎える7月下旬以降には実験を開始する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の試験体費用が当初想定していた単価より低く済んだので、今年度は試験体の数が2倍程度、土塗り壁が少し高めとして、試験体その他消耗品費用を100万円程度見込んでいる。試験体の増加に伴って、実験補助および実験データ整理補助の謝金も平成23年度より多く、15~20万円必要と考えている。計測機器の追加も必要となるので、変位計などの少額備品を20~30万円程度で購入予定である。また、実験に使用している加力装置や計測用PC、計測ソフトウェアなどが、導入から5年以上経過しているので、交付申請では明記しなかったが、研究費の一部、数10万円をこれらのメンテナンスや更新のための費用に充てる必要が生じてくるだろうと考えている。特に、特注して利用している計測ソフトはWindows XPが動作推奨環境であるが、近年、Windows XPの動作するPCの新規購入が困難になってきているので、今後、見積もりを取ってメーカーにWindows 7以降への対応を依頼する必要が生じる可能性もある。7月15日から19日にかけてニュージーランド、オークランドで開催されるWorld Conference on Timber Engineering 2012への出席、研究発表のため、約25万円の海外出張旅費のほか、2012年度日本建築学会大会への参加・研究発表などの国内出張旅費も使用予定である。
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