研究課題/領域番号 |
23560700
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
成田 健一 日本工業大学, 工学部, 教授 (20189210)
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研究分担者 |
菅原 広史 防衛大学校, 地球海洋科学科, 准教授 (60531788)
三坂 育正 株式会社竹中工務店 技術研究所, 先端技術研究部, 研究員 (30416622)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ヒートアイランド / 微気候 / 緑地 / 冷気流 / 放射冷却 |
研究概要 |
初年度である平成23年度は、予定通りに超音波風向風速計8台を購入、7月29日に納品された。斜面緑地を対象とした実測は、都内に計10エリアを選定し、7月17日から順次測器の設置を行い、9月末まで実施した。具体的な場所と測器(超音波風向風速計:以下U、温度ロガー:以下T)の設置数は次の通り。赤塚公園(板橋区、U6台・T52台)、小豆沢公園(板橋区、T7台)、戸山公園(新宿区、U2台・T28台)、小石川植物園(文京区、T12台)、成城四丁目緑地(世田谷区、T3台)、大蔵緑地(世田谷区、T2台)、有栖川宮記念公園(U2台、T14台)、赤坂御用地周辺(港区、T3台)、愛宕神社周辺(港区、T1台)、パークコート神宮前緑地(渋谷区、U1台・T10台)である。サンプリング間隔は、風向風速は1秒、気温は1分とした。なお、気温測定用の温度ロガーは自作の自然通風日射遮蔽シェルターに装着して設置した。赤塚公園、小豆沢公園は北落ちの連続した斜面緑地、成城と大蔵は国分寺崖線沿いの南西落ちの斜面緑地で、何れも比高は約20mである。戸山公園、有栖川宮記念公園、小石川植物園は市街地に囲まれた公園で、園内に傾斜地を有している。赤坂御用地は都心の大規模緑地で東落ちの傾斜地に立地している。パークコート神宮前緑地は非常に小規模な細長い緑地で緩く傾斜しており、愛宕神社と同様、どの程度小さな緑地で「冷気のにじみ出し」が発生するかを検討する目的で選定した。 以上の多地点の同時実測から、以下の成果が得られた。斜面緑地では平地の緑地に比べ早い時間帯から冷気流出が始まるが、持続時間は逆に短くなる傾向があった。生活への影響を考慮すると、就寝時間帯に冷気流出が起こる斜面緑地の有用性は高いといえる。都心の斜面緑地は、これまでの大規模緑地に比べると冷気の供給能はやや弱く、幹線道路を挟んだ市街地には冷気が到達し難いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度である平成23年度は、緑地の規模や周辺状況に差異がある緑地をできる限り多数選定し、比較検討を試みた。対象エリアが広範囲に及んだため、多数の管理部署(東京都や各区役所)へ測器設置の許可申請を行う必要が生じ、その過程にかなりの手間を要したが、交付申請書の実施計画に記述した5~6箇所を越える数の実測エリアを最終的に確保できた。測定期間に関しては、計画では2~3ヶ月を予定していたが、多くのエリアで約2ヶ月の実測期間が確保できた。また、実施計画に記述した狭隘な緑地の評価もパークコート神宮前緑地を対象に実施できた。気温の測定ポイント数も、当初計画の50~90地点を大幅に上回る計132地点で実測を行った。なお、超音波風向風速計が、交付申請書提出時より値下がりしたため、計画調書では計上していたが減額により断念していた、赤外放射計とデータロガーも購入することができ、希望していた設備備品は全て揃えられた。 リモートセンシングデータとGISデータによる解析については、緑地の選定に先立って東京区部の緑地と傾斜をオーバーレイしたマップを作成した。衛生データに関しては、次年度以降の実測を計画している多摩ニュータウンについても今年度予算で購入し、次年度以降の体制を整えた。なお、多摩ニュータウンに関しては、住環境の評価を念頭に、冬季の影響を把握する目的で12月末より計31箇所で気温の計測を開始している。 以上を総括して、交付申請書の実施計画に記述した全ての項目に関してほぼ予定通りに達成できた。特に測定に関しては予定していた以上のデータ取得ができた。次年度に向けての準備も着々と進められている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を踏まえ、次年度はエリアを変えて、引き続き実測を継続する。主たるターゲットとするのは、背後の斜面緑地を有する団地が多数存在する多摩ニュータウンである。今年度の実測から、斜面緑地の冷気供給能には、斜面緑地の幅や、上端面の背後の緑地の有無が影響していることが推察された。丘陵地を開発した多摩ニュータウンでは、段丘面の周端に沿った斜面緑地に比べて緑地幅が広く、大きな冷気供給能が期待できる。すでに、多摩市・稲城市の教育委員会、団地を管理するUR都市機構と調整を済ませ、測器の設置についての準備も進んでいる。ニュータウン内に位置する都立桜ヶ丘公園での実測に関しても、東京都との調整をほぼ済ませている。もう一つのターゲットとして予定しているのが、国分寺崖線沿いの斜面緑地である。今年度は成城四丁目緑地・大蔵緑地で予備的な気温測定を行い、冷気のにじみ出し現象が発生していることを確認した。次年度は、世田谷区を中心に、調布市、三鷹市、小金井市などにもエリアを拡大し、緑地の幅や下端の市街地状況の差異による冷気流出の違いを系統的に把握する。特に世田谷市では、現在、生物多様性の観点から崖線沿いの斜面緑地の保全施策を展開しているが、今回の実測から、新たな緑地保全の視点を提供できると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品の購入はなく、今年度に購入した測器を使って実測を継続するための、超音波風向風速計・設置用治具の修理および追加のための費用、ならびに気温測定用の日射遮蔽シェルター(自作)の修理と追加のための、金具、ネジ類、結束バンド、アルミテープ、などの材料費が主な支出となる。加えて、超音波風向・風速計用のバッテリーと温度ロガー用のバッテリーパックの購入が必要となる。なお、今年度と同様、街路灯への測器の設置に伴う、道路占有料・申請料などの発生がある場合はそれにあてる予定である。
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