研究課題/領域番号 |
23560708
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
石松 維世 産業医科大学, 産業保健学部, 講師 (40289591)
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キーワード | 浮遊微生物 / 濃度測定 / 細菌同定 / 細菌叢解析 |
研究概要 |
平成24年度は、当初計画に基づいて引き続き会議室、実験室、実習室と屋外において月1回、ろ過捕集法による菌数濃度と衝突法による生菌数濃度を測定した。また、7月より、3カ月に1回、浮遊細菌叢解析のためのサンプリングを、会議室および実験室の室内2箇所と屋外で行った。さらに、当初計画にはなかったが、衝突法で得られた細菌コロニーを分離培養し、グラム染色性と形状によるグループ分けを行い、グラム陽性球菌について簡易同定キットapi(シスメックス・ビオメリュー)を用いて、Staphylococcus属とMicrococcus属に関する同定を行った。 浮遊細菌濃度は、昨年度と同様に在室頻度が高い実験室では生菌数濃度が高い傾向があった。また、在室頻度が高い実験室や会議室では、グラム陽性球菌の割合が比較的高く、皮膚常在菌と考えられるStaphylococcus属やMicrococcus属が多かった。屋外では、室内に比べ、グラム染色性と形状によるグループ分けでは、特定のグループが常に多い傾向は低かった。 浮遊微生物濃度を日本建築学会規準『AIJES-A0002-2013』と比較すると、細菌はどの室内も事務所の維持管理規準値を満足していたが、真菌は5月から11月にかけて規準を超えていた。しかし、7月を除きI/O比(室内外濃度比)は1未満であったため、7月以外は室内に発生源はないと考えられ、7月の濃度上昇の原因調査が必要となった。 分子生物学的細菌叢解析試料については、平成24年7月、10月および平成25年1月に捕集を行った。10月は、捕集フィルターからの回収に問題が生じ、参考結果にしかならなかった。平成24年7月と平成25年1月の試料を解析した結果、同じ場所でも季節により細菌叢の優先種が大きく異なることが認められた。また、屋外ではCyanobacteria門が多いことが特徴的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた会議室、実験室、実習室および屋外の4箇所で行っている浮遊微生物濃度測定は予定通り進行しており、室内環境の評価に必要な浮遊微生物濃度データは得られている。また、当初の予定にはなかったが、衝突法により得られた細菌コロニーについて、分離培養を行って凍結保存するとともに、グラム染色を行って染色性と形状による大まかなグループ分けを行った。これらのうち、グラム陽性球菌と判断したものについては、ブドウ球菌類簡易同定キットであるapi staphまたはID32 staph api(シスメックス・ビオメリュー)を用いて、細菌種の簡易同定を行っている。同定は1年分すべては終了していないが、グラム染色性によるグループ分けは終了しているため、グラム陽性と考えられる球菌についての同定は平成25年夏までに終える予定である。これまでの結果から、衝突法に使用しているソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地には、Staphylococcus属、Micrococcus属、Bacillus属が多く生育することが認められた。特に、在室頻度が高い会議室や実験室では、Staphylococcus属やMicrococcus属の検出頻度が高かったことから、ヒト由来であることが強く示唆されている。 一方、分子生物学的細菌叢解析は、予定通り2012年7月、10月および2013年1月に室内2ヶ所と屋外で浮遊細菌の捕集を行い、本学事業組合であるSMART LLPに依頼して細菌叢解析を実施した。10月の試料については、捕集フィルターからの細菌回収に不手際があり、信頼できる結果が得られなかったが、7月と1月の試料については妥当と考えられる結果が得られている。この結果を簡易同定キットによる細菌コロニーの同定結果と比較しながら各室内の特徴やリスクについて詳細に検討するのは、これからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度も、過去2年間と同様に会議室、実験室、実習室および屋外で月1回の浮遊微生物濃度測定を継続し、最終的には3年分の浮遊微生物濃度データをもとに、生菌数濃度(CFU/m3)と菌数濃度(cells/m3)について場所ごとの特徴を把握する。また、室内と屋外との濃度の比較を行って発生源の推定を行い、3カ年の年間変動を解析する。 細菌叢解析については、4月に分子生物学的細菌叢解析のための捕集を行うが、解析に供する試料採取はこれが最後となるため、6月ごろまでには季節ごとの細菌叢解析結果が出揃う予定である。この結果と、同時期に衝突法により得られた細菌コロニーの簡易同定結果とを比較し、検出された細菌(細菌のクローン)の構成比やその検出数、病原性の有無などについて考察を行っていく。最終的には浮遊細菌濃度と細菌種のデータに基づき、室内空気環境における浮遊細菌についてのリスク評価を考えていく。 昨年度から本年度に得られた研究成果の一部は、本年度の日本建築学会や室内環境学会での発表を予定しているが、最終的には3カ年の濃度データおよび細菌叢解析結果、簡易同定キットによる同定結果をまとめ、論文として投稿する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に交付される予定金額は、平成24年度からの繰越金を含めた約92万円である。繰越金約12万円は、アルバイトの雇い上げで見積もっていた謝金の金額より謝金支払い金額が少なくなったことで生じた。 平成25年4月に捕集する試料については、本学事業組合であるSMART LLPに分子生物学的細菌叢の解析を依頼するが、1検体の解析料が約14万円であるため、3箇所の試料では約42万円となる。また、平成25年度は本研究の最終年度であるため、研究成果をまとめるための印刷費等5万円を予定している。これらを含め「その他費」として50万円を計上する。また、継続して行う実験に使用するシャーレ、寒天培地やフィルターなどの「消耗品費」を20万円とし、実験の進行に応じて随時購入し使用する。さらに、実験補助者の雇い上げとして「謝金」を7万円、研究成果を発表するため2ヶ所での学会発表を予定しているため、「旅費」として15万円を計上する。
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