研究課題/領域番号 |
23560709
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研究機関 | 日本大学短期大学部 |
研究代表者 |
吉野 泰子 日本大学短期大学部, 建設学科, 教授 (90269499)
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研究分担者 |
張 晴原 筑波技術大学, 産業科学技術学部, 教授 (70227346)
井上 勝夫 日本大学, 理工学部, 教授 (30102429)
三上 功生 日本大学, 生産工学部, 助教 (80434124)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 中国西部 / 気候 / 伝統民居 / 集合住宅 / 居住環境 / 健康 / 太陽放射 / 実測 |
研究概要 |
中国西部地域は,発展途上にあり,省エネ,低炭素社会への環境技術の進展は目覚ましく,環境保全を図りつつ,経済成長と地域活性化が両立することを念頭においている。そこで,本研究は中国西部の気候・居住環境を中心に,物理量測定及びアンケート調査を推行し,当該地域の気候と環境特性を把握した上で,健康的で持続的発展可能な居住環境の建設技術やライフスタイルのあり方を提唱し,自然エネルギーに適応した新型省エネ住宅を提案することを意図している。 本調査では中国西部の新疆ウイグル自治区トルファン市と甘粛省張掖市粛南ユグル自治県の伝統民居と集合住宅を対象とし,西安建築科技大学と共同で居住環境測定を実施した。住戸の室内外温湿度,PMV値,太陽放射(日射量・紫外線),光,騒音,粉塵量,CO,CO2,真菌と化学物質などの実態を計測すると共に,住民の環境意識を調査し環境実態を把握することができた。トルファンの居住環境の特徴は以下の通りである。(1)気温の日較差・年較差が大で,降雨量が極端に少ない。(2)夏季の太陽放射が大で, 紫外線対策が要される。(3)夏季の日射遮蔽により住み易い半屋外空間が創出可。(3)生土建築の温熱効果が確認されたが,室内採光は悪い。(4)女墻(ひめがき)換気口と天窓の換気効果が高い。(5)冬季,石炭暖炉による放射壁の温熱効果が顕著である。粛南県の場合, (1)日射量と紫外線放射量が大で,防御策が要される。(2)集合住宅では伝統民居より自然採光性能が良い。(3)冬季,集合住宅と伝統民居の温熱環境に顕著な差違がある。(4)伝統民居におけるカンの効果が高い。(5)集合住宅の床暖房性能がよく, PPD値に反映されている。トルファン,粛南両地域共,粉じん量が高い値となり,CO とCO2濃度は冬期に高濃度である。化学物質は民居のアセトアルデヒドの数値が顕著であるほか,真菌がトルファン地域の冬期に高い値を示す結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当プロジェクトは,中国西部の新疆ウイグル自治区トルファン市と甘粛省張掖市粛南ユグル自治県の伝統民居と集合住宅を対象とし,西安建築科技大学と共同で現地に赴き,居住環境の実態を物理量及び心理量測定の両面から把握し,当該地域の気候と環境特性を把握した上で,健康的で持続的発展可能な自然エネルギーに適応した新型省エネ住宅を提案することを目途としている。 本調査は,17年間に渡る信頼関係をもとに構築された日中共同研究の成果がいかんなく発揮され,対象住戸の温熱・空気質・光・音環境に加え,健康環境の視点から,真菌と化学物質などの実態を現地住民の協力のもとに計測することが可能となり,併せて住民の環境意識を調査し日本と明らかに異なる家族構成に基づく環境実態を把握することができた。葡萄棚に見られる当該地域の気候風土に基づいた夏季の日射遮蔽方法や屋上での睡眠,冬季暖房時の台所の排熱を有効活用した放射暖房などサステイナブルな生活は,進化した環境制御技術を持つ日本においても,地球環境時代における省エネライフの一環として大いに学ぶものがある。特に,粛南遊牧民の定住化政策のための,住まいの提供に際しては,資源が豊富な石炭による地域暖房により,集合住宅全戸に床暖房が付設され,放射暖房の効果が熱画像により可視化されるなど,今後の地域計画においてもエネルギーロスと有効活用の二極化が示唆され地球環境時代における省エネ意識の普及という次世代の住育の必要性を目の当たりにした。当該2地域共,伝統民居におけるカンの放射効果が高く集合住宅では,地域暖房によりPPD値が低くなるなど,実測結果に如実に反映しており,室内外空気質の汚染状況も現地実測ならではの成果である。ただし,色素増感型フイルム状太陽電池の実証実験が未実施であり,今後の発電効率の改善に期待したい。以上,当該プロジェクトは,おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
中国南西地域(雲南省,四川省)における建築設計用気象データの収集を計る。当該地域の気候風土や独特な文化が建築に及ぼす影響は大きいため,現地住民のライフスタイルと環境意識の把握,都市集合住宅と農村伝統民居の冷暖房,給湯,照明などのエネルギー消費状況を把握する。温熱環境,空気質,光,音環境は窓の開口率,空間構成,工法により,物理指標やエネルギー消費量も異なることから,実地調査を行ない形態と構造を把握し,居住環境実態を調査する。中国南西地域の高原の海抜は高く,空気中の酸素含有量は減少し,酸欠現象の人体に対する影響は顕著で,不眠症,肺水腫,高血圧,高原性心臓病,早産などを誘発する。空気が希薄で汚染されていないことから,太陽放射は強烈で,曇りの日は少なく,紫外線放射により,日光性皮膚炎を生じ老衰しやすく,特に目への損傷があり,白内障の発病率は極めて高い。健康被害や自然エネルギー活用の観点から, 紫外線の実態をも把握する必要がある。また,太陽熱の有効活用が期待される西部高原で,持続可能な環境共生技術を開発し,伝統民居の長所を現代住宅に適用し,農村ではバイオヴィレッジ建設構想を,都市部では気候風土を反映したパッシブ建築設計手法を導入し,シミュレーションによる検証を経て実用に供する。 中国西部民居の屋上・壁面・窓部で開発中の太陽電池パネルを設置し,発電効率を把握する(夏・冬各1回を実施予定)。実験室実験では,光源の照度・温度・パネルの色彩による発電効率を確認し,紫外線の影響による電池パネルの劣化を検討する。以上,都市集合住宅と農村伝統民居の物理量測定結果から,住宅の基本モデルを構築し,熱伝導率などの物性値,エネルギー消費量を適用し,シミュレーション ソフト STREAM, Thermo Renderを用い,住戸内外の温熱環境を検討し,自然エネルギーを導入した自立循環型住宅を提示する。
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次年度の研究費の使用計画 |
西部地域住宅の実測調査結果から,住宅の基本モデルを構築し,建築材料の熱伝導率などの物性値,エネルギー消費量を適用し,自然エネルギーを導入した自立循環型住宅を提示する。中国西部地域の居住環境特性に応じた新型省エネルギー住宅設計ガイドラインを提案する。成果物を公開し,シンポジウムの開催,もしくは国際会議への参加や出版事業を念頭においている。 都市集合住宅と農村伝統民居の物理量測定結果から,住宅の基本モデルを構築し,熱伝導率などの物性値,エネルギー消費量を適用し,Simulation soft STREAM, Thermo Renderを用い,住戸内外の温熱環境を検討し,自然エネルギーを導入した自立循環型住宅を提示する。これらソフトの更新料,国際会議への出張旅費,シンポジウム開催に向けた交通費,印刷費,会議費他諸費用のストックが要される。また,最終報告書を製本化し,日・中・英の3か国語で出版するなど融通性のある予算計画が望まれる。
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