研究課題/領域番号 |
23560724
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小浦 久子 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30243174)
|
キーワード | 景観計画 / 空間計画 / 持続可能な開発 / 市街地再編 / リージョン / 計画制度 |
研究概要 |
23年度の景観行政団体へのアンケート結果とヒアリング調査の分析にもとづき、景観から総合的な地域環境管理のための計画課題についての検討を進めた。都市部だけでなく、現行の都市計画制度では対象外である田園部や中山間集落においても縦割りの土地利用管理を超える計画の試みが確認できた。合わせて、計画は総合的であっても、敷地や開発単位の基準では、地域環境のコンテクストにおいて評価する設定が困難、他制度と連携させる場合の変更時の調整課題など、制度上の問題認識が見出された。また、適切な地域環境の開発管理のための計画単位(地域環境のまとまり)をどのように設定するかが、計画技術と合わせて検討すべき課題となることも確認できた。 日本での景観ー環境系アプローチによる計画技術開発を進めるにあたり、英国のデザイン政策との比較研究を実施する予定であったが、英国の政権交代後、空間計画に関する政策が大きく転換されたことから、当初英国との比較対象として補助的位置づけとしていたEUの空間計画を比較分析対象とすることした。 英国およびEUの空間計画に関する文献調査から、EUの計画概念や技術のもとにオランダの計画制度があることが分かってきた。また、計画単位としてリージョンの概念が重要となっている状況が把握できた。そこで、EUの計画制度の研究と実践を担ってきたオランダとドイツの専門家および自治体プランナーへのヒアリング調査を実施した。計画主体である自治体の規模や役割の相違、持続可能な開発にむけての計画管理のしくみの違いを認識したうえでの調査結果の分析が必要であるが、大きな方向として空間計画が物的計画から人の活動を含む計画概念”Territorial Cohesion"へと移行している実態が確認できた。景観ー環境系アプローチでも地域環境の物的構成とその成り立ちの条件とをつなぐ必要があることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度に国内の取り組み事例をアンケート調査とヒアリング調査により情報収集を実施し、24年度は国内事例の分析により計画課題の具体的検討を行った。景観計画の開発管理に関わる届出対象や基準についての課題、他制度との連携による効果や相互補完機能のあり方、合併により市域が広大になったときの地域や景観のまとまりにもとづく計画単位の考え方や段階的計画策定の進め方など、景観-環境系アプローチによる総合的開発管理にむけての計画制度に関わる論点を事例から把握することができ、研究計画の第1ステップはある程度達成できた。 また、24年度は、英国のデザイン政策および計画政策の大きな変更が具体化するなかで当初予定とは異なりEUの空間計画の調査をすることとしたが、国内事例にもとづき地域の概念や計画単位の考え方、開発管理の手法など課題認識が明確になるなかで、適切な変更であったと考えている。実際、現地でのヒアリング調査により、最近の計画概念の展開についても情報収集することができ、空間計画の考え方が進化していることがわかった。 EUの空間計画は地域のまとまりのひとつとしてリージョンが設定されているが、そこでの機能ネットワークや開発調整の計画概念は、巨大化した日本の自治体において持続可能な地域構造にむけての市街地の再編、集落や田園も含めた地域環境の再編に有効な知見となると考えている。比較調査対象の変更はあったが、調査結果からは新しい発見があり、概して今後の計画課題の検討に資するものと判断している。 こうした状況から、予定とは異なる取り組みとなっている部分もあるが、目的の達成に向けては、おおむね順調の進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
25年度は本研究課題の最終年度となるため、これまでの調査結果の分析をまとめ、当初予定どおり、景観ー環境系アプローチからの空間計画の役割と計画課題の検討を行い、総合的な開発管理のための制度設計にむけての基礎的知見をまとめる。 視覚的に確認できる環境変容を手がかりとする研究アプローチをとることから、空間計画の計画制度との比較研究が有効であると考えていたが、EUの空間計画についての調査から、空間計画の概念には物的構成だけではないことがわかった。都市や地域における活動(産業・文化など)や都市機能ネットワークなどの地域ビジョンや目標から開発管理や調整を行いとともに、適切な公共投資により、空間を形成する枠組みとして空間計画があること、その計画単位としてのリージョンは国により地域により試行錯誤があるものの、空間と機能ネットワークをつなぐ景観単位としてとらえられていることがわかった。日本の事例調査から得られた計画課題の論点分析を進めるとともに、EUにおいて空間計画から進化しつつある計画概念の理解を進め、日本における持続可能な地域の再編整備に資する総合的な計画管理を可能とする制度設計について検討する。 このとき、計画書に示すように連携研究者との研究会で検討を進める予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
25年度の主な研究費使用計画は以下の3点である 1.EU空間計画の追加調査:EUの空間計画に比較対象を変更したことから追加調査が必要となっている。分析の進捗に応じて短期間の現地調査(ドイツの空間計画の予定)を行う 2.研究会:これまでの調査結果を踏まえ、総合的な開発管理のための空間計画のあり方と制度設計にむけての課題と論点を検討するために、連携研究者との研究会を2回程度実施する 3.成果のまとめと発表:これまでの調査研究をまとめ学会や国際会議での発表を検討していく。 この3点が主な支出目的となり、当初予算の枠組みを大きく変更するものではないが、旅費に比重が高くなると想定される。当初はこれまでの調査の蓄積にもとづき英国の開発計画と計画許可制度における開発管理への移行について空間計画の観点から比較研究を行う予定であったが、調査を進めるなかでEUの空間計画の新たな展開であるところの「Territorial Cohesion」、および景観-環境系アプローチからは地域レベルでの一元的な空間計画の検討の必要性が高まっており、これらの基本概念の理解のための資料収集作業が追加的に必要と考えられる。予算の範囲内でできるだけ効率的に進める予定である。
|