研究課題/領域番号 |
23560734
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研究機関 | 北海道工業大学 |
研究代表者 |
久保 勝裕 北海道工業大学, 空間創造学部, 教授 (90329136)
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研究分担者 |
椎野 亜紀夫 北海道工業大学, 空間創造学部, 准教授 (00364240)
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キーワード | まちづくり市民事業 / 市民事業体 / 事業スキーム / 多主体協働 / 地域運営 |
研究概要 |
3カ年計画の2年度である平成24年度の研究実績は、北海道内における調査・分析が主であり、その内容は以下の通りである。 第一に、市街地において市民事業を実施している事例として、富良野市・函館市・稚内市・岩見沢市・小樽市における市民事業体を対象に、市民事業単体の事業スキームから多主体協働の地域運営システムに至るまでの調査・分析を実施した。富良野市は平成23年度からの継続研究である。この内、旧中活法に基づくTMOを起源としている富良野市・函館市・稚内市の市民事業体を見ると、富良野市のみが民間主導による組織へと大きな転換を行っていることから、他の2事例との比較と通じて、その転換にいたったプロセスを詳細に分析した。その成果は、日本都市計画学会都市計画論文集に『出資者のまちづくり歴からみたまちづくり会社の展開プロセス-ふらのまちづくり株式会社を事例として-』として投稿中である。岩見沢市と小樽市の事例は、民間発意の市民事業体であるが、概ねその調査を終え、今年度に分析を進める予定である。 第二に、農村において市民事業を実施している事例として、鹿追町と下川町を取り上げ、上記と同様の調査を実施した。特に鹿追町では、行政との協働のもとで、グリーンツーリズムに関連した企業群が連鎖的に起業され、ゆるやかなネットワークのもとで地域運営を担いつつある実態を把握した。これらは、下川町における林業関連事業の波及と同様に、地域の基幹産業を軸に派生したものであり、市街地系の事例とは異なるプロセスで展開している。これら2地域を対象とした調査は概ね終了しており、今年度の補充調査を踏まえて、農村型の地域運営システムのモデルの構築をできるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画では、(1)「市民事業体」が設立され、事業展開に至った経緯をモデル化する、(2)公益性をもった市民事業を成立させている仕組みを詳細に解明してモデル化する、の2点を目標としていた。 (1)については、主に、市街地系の富良野市と函館市、農村系においては鹿追町と下川町を対象に調査を実施し、1)事業展開・まちづくりの経緯、2)地域資源の活用実態、3)母体組織の有無・性格、4)事業生成に至った契機あるいはモチベーション、等の視点から詳細に明らかにした。富良野市と函館市における市民事業体は、共に旧中活法に基づくTMOとして設立されたものであるが、富良野市では増資を契機に行政主導の体制から民間主導へと性格を大きく変えて今日に至っている。上述の通り、このプロセスを詳細に把握した結果は、日本都市計画学会都市計画論文集に『出資者のまちづくり歴からみたまちづくり会社の展開プロセス-ふらのまちづくり株式会社を事例として-』として投稿中である。また、農村系の鹿追町と下川町についても、市民事業体が連鎖的に派生した実態を詳細に把握することができた。 (2)については、岩見沢市の2つの市民事業体を対象に調査分析を進めた。この2団体は、TMOを起源としたものではなく、特定のエリアマネージャーの強力な推進力によって、まちづくり市民事業を進めている事例である。これを対象に、市民事業スキームを詳細に把握し、分析した。なお、こうした市民事業スキームの分析は、富良野市と江差町および稚内市においても調査・分析を終了している。 以上のように、昨年度においても研究成果を学術論文(投稿中)としてまとめることができ、今年度以降の研究につながる成果をあげたことから、当初の目的は概ね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度である平成25年度においては、当初予定の通り、地域運営システムのモデル化と市民事業生成以降の一連のプログラムの構築を行う。対象は、市街地系は富良野市・岩見沢市・小樽市・函館市・江差町・稚内市、農村系は鹿追町・下川町・長沼町・根室市、などを予定しており、以下の手順で実施する。 第一に、平成24年度までに調査を実施した市民事業体に対して、補充調査を実施する。市街地系では岩見沢市・小樽市・函館市を予定している。農村系では、民間主導で市民事業を実施している根室市の市民事業体を新たに調査対象に加える予定である。状況に応じて、上富良野町の市民事業体も加えることを考えている。 第二に、地域運営システムのモデル化を行う。まちづくり市民事業が展開されている地域では、機能増殖による市民事業体の分化や、その周辺での他組織の動きもあり、やがてそれらが、中間媒介組織等の働きかけなどによって連携を図る場合が多い。市街地系はもちろん、ステークホルダーがさらに少ない農村系では、市民事業体自体が媒介となって多主体協働の体制を構築する傾向がある。ここでは、地域内で活動する他組織について、⑴組織形態、⑵構成員の属性、⑶活動内容、⑷市民事業体との連携実態、等を詳細に調査分析し、市民が協働して地域を運営していくメカニズムを解明してモデル化する。 第三に、多主体協働による地域運営システムの構築に至るプログラム化を行う。これまでの分析を踏まえ、まちづくり市民事業の生成から事業実施、多主体協働の地域運営システムの構築に至る一連の過程を、仮説的にプログラム化し、広く応用が可能な地域運営の方法論を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は現地調査に基づいた調査・分析が中心であり、平成25年度における研究費の使用については、当初の予定通り、主に国内旅費および研究補助に対する謝金の支出を予定している。 国内旅費については、北海道内の市街地系3地域、農村系2地域の計5地域の現地調査を予定している。前者は研究代表者が行い、対象は岩見沢市・小樽市・函館市を想定している。後者は研究分担者が主に実施する予定であり、根室市と上富良野町を対象に実施する予定である。1地域2回、各2日程度の調査を想定している(50千円×10回=600千円)。 謝金等については、研究協力者および研究補助をお願いする学生への支出を予定している。現地調査に先立つ基礎的資料の収集・整理・入力、現地調査の補助、ヒアリング調査後のテープ起こし、などの補助が必要である(25千円×2名×8月=400千円)。 その他、消耗品に50千円、印刷製本費等に50千円の支出を予定している。
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