近年、駅施設に隣接する地下空間の相互接続・商業化が活発に進められており、平常時の快適利用のための計画および非常時の避難誘導対策が求められる。地下空間は似通った風景になりやすいため、空間的魅力が小さく、その場がどこであるのかがわかりにくいことで災害時にも迷いを生じやすい。 本研究全体では、地下空間において視環境が内部に限定される風景を「地下景観」と呼称し、その空間要素からうける空間の印象を明らかにし、平常時および非常時の行動との関係を考察することを目的とする。 現状を把握するために、地下駅空間計画に関連する法規の整理を行った。加えて、地下空間の計画および実施状況について事業者にヒアリングを行った。また全国7都市の代表的な地下街および地下空間約35ヶ所を選定し、約400地点での5方向(前後左右、天井)の静止画および3D動画の撮影する現地事例調査を行った。この3D動画映像を提示することで、被験者による景観評価実験を行なった。目的は地下空間における他の場所との空間弁別のしやすさと避難経路のわかりやすさの関係、空間要素から受けるリスク認識の程度を明らかにすることである。その結果、地下空間では防災上安全な避難を阻害する不安感、圧迫感を与えやすいこと、地下景観を構成する要素として天井および床面のデザインが大きく寄与していることを明らかにした。また、これらを軽減するためには吹き抜けの設置や窓、天窓等による外部からの自然光導入や屋外視認が効果的であることを明らかにした。 最終年度は、これらの成果をもとに避難誘導計画のための人間行動と地下景観の関係を考察した。商業店舗に類似する内装を持つ地下街においては、その地下階数位置と不安感には相関関係はみられず実際の避難しやすさとは関係していないこと、地下空間は空間構成要素が単純で他の場所と混同しやすいことなどから、避難対策上の注意が必要であるとした。
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