研究課題/領域番号 |
23560762
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大野 敏 横浜国立大学, 都市イノベーション研究院, 准教授 (20311665)
|
キーワード | 東日本震災復旧 / 伝統的木造修復 / 茅葺き / 修復体験 / 芝棟 |
研究概要 |
平成25年度は、平成24年度に実施した岩手県洋野町の芝棟茅葺き体験学習の成果を,芝棟文化の歴史的価値と技術伝承の重要性の立場からイコモスCIAVの年次総会(ポルトガル)にて発表した。その要旨は以下の8項目である、。 1)岩手県洋野地域における茅葺民家の悉皆調査の結果、50等を超える現存例のすべてが芝棟を有すること。2)芝棟茅葺きについては所有者が維持管理上困難を極めている事例が多数であること。3)地元にもと茅葺き師がいることが判明したのでその人を指導者として茅葺き講習会を企画し、茅葺き所有者や周囲の人たちの理解を深めようと活動したこと。4)その講習会によって地元の茅葺き技術と芝棟技術の1事例を記録できたこと。5)その技術がきわめて素朴で原初的な茅葺き技術を留める可能性が高いこと。6)この地域には掘立柱構法が根強く残っていることも茅葺き技術の素朴性と関係あるのではないかと捉えたこと。7)以上の諸点を考えると,洋野町の芝棟茅葺きは世界遺産となっている合掌造り民家の茅葺きに匹敵する重要性を持つものであること。8)作成した芝棟茅葺き模型の追跡調査と整備中の茅場の様子も確認したこと。 一方、野外博物館における歴史的建築保存継承のためのトレーニングについては,本年度も川崎市立日本民家園にて神奈川県ヘリテージマネージャー研修会を行った。更に相模原市緑区内においても歴史的建造物を記録してその価値を一般に啓蒙していく試行を2件実施した。 さらに,横須賀市において茅葺き別荘建築(現在は市の貸し館施設)に関する,維持管理の困難な状況に関して,有志がボランティアによる定期的な修繕体験活動を企画したので,その事業にアドバイザー兼参加者として参加し,記録をとりつつ,その活動を通して「歴史的建造物の維持管理読本」をまとめるべく準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
技術保存、公開については昨年6月から横須賀市(万代会館という市の貸し館施設、昭和初期頃の別荘風住宅で茅葺き建物が複数等連棟している)において月一回のボランティア修理事業に,アドバイザー兼体験者として参加しており,記録を積み重ねている。ここでは近い将来の茅葺きや値修理をボランティア的に実施することを目標に,庭園の垣根修理、門・庇等の金属板屋根修理、床・建具等の修理、など建物全体の維持修理に関する基本技術を身につけながら,具体的に一件の歴史的建造物を修復していこう、という意欲的な試みで,その記録をうまくまとめることができれば,今後汎用性が見込まれ,たいへん有益といえる。 また、野外博物館を利用した歴史的建造物保存にに対する取り組みは,川崎市立日本民家、相模原市緑区所在の小原宿本陣や旧藤野町エリアで継続的に展開しており、更に一昨年度に行った岩手県洋野町の芝棟茅葺の追跡調査や国際学会発表も行った。
|
今後の研究の推進方策 |
茅葺きの技術継承に関する活動は、昨年度から開始した試行(横須賀市の茅葺き建物を有志の協力により毎月一回の修復体験学習を積み重ねて修復していく)に指導的にかかる中で,ボランティア的な関わりの中で歴史的建造物を修復していく手法論に関する基礎資料を冊子体でまとめていきたい。その中には歴史的建築そのものの価値の見いだし方、現状の改造状況と復原考察(履歴の確認)、破損状態の確認、具体的な修理手法の考え方、具体的な成果、に関して横須賀市における経験を踏まえてまとめてみたい。また、ボランティア的な協力体制によって,歴史的建造物を保存継承していくことの重要性と課題に関してシンポジウム(意見交換会)のようなイベントも実施したい。
|