研究課題/領域番号 |
23560769
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
辻原 万規彦 熊本県立大学, 環境共生学部, 准教授 (40326492)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / 台湾 / 日本史 / 工場 / 社宅街 / 植民地 / 沖縄 / 北海道 |
研究概要 |
本研究では,戦前期日本の影響下にあった諸地域,すなわち台湾,南洋群島,樺太,朝鮮ならびに満洲と日本国内における製糖・精糖業によって形成された都市もしくは街を対象に,製精糖工場とそれを取り巻く社宅街の建設過程を,現地調査や文献調査により詳細に検討することを目的としている。平成23年度は,具体的には以下のように研究を進めた。 2011年8月に北海道を訪問し,戦前期に設立されて製糖工場への甜菜の輸送や製糖工場からの製品の輸送などのほかに旅客輸送も行っていた十勝鉄道と河西鉄道に関する史料を収集し,閲覧した。さらに,これらの史料は全てデジカメによる撮影を行い,デジタル化を行い,今後の史料の活用を容易にした。 2011年9月と2012年3月に台湾を訪問し,12ヶ所の製糖工場(跡)を対象に,戦前期の台湾における製糖工場と社宅街に関する現地調査を行った。そのうち1ヶ所では,文物館所蔵の当時の史料を閲覧し,デジカメによる撮影を行い,史料のデジタル化を行った。また,台北市の中央研究院を訪問して意見交換を行い,関係する史料を閲覧・複写した。さらに,これまで国外の機関にはほとんど公開されていなかった中央研究院所蔵の戦中期と戦後直後(米軍による撮影)ならびに戦後期(民國50年代)に撮影された製糖工場の空中写真の一部を入手した。なお,国立中央図書館台湾分館などでも資料の閲覧と複写を行った。 2012年3月に沖縄を訪問し,西原,嘉手納,高嶺の3工場を対象に,戦前期の沖縄における製糖工場と社宅街に関する現地調査と史料収集現地調査を行い,史料を収集した。また,沖縄県立公文書館所蔵の米軍撮影による空中写真を収集した。 2012年1月に糖業協会を訪問し,満洲,朝鮮,樺太の製糖工場と社宅街に関する同協会所蔵の史料を閲覧し,複写を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では,平成23年度には,1)これまで収集した史料/資料の整理とこれまでの研究成果の整理,2)戦前期の台湾における製糖工場と社宅街に関する現地調査,3)戦前期の沖縄における製糖工場と社宅街に関する現地調査と史料/資料収集,4)満洲,朝鮮,樺太の製糖工場と社宅街に関する調査の開始,5)米国公文書館での航空写真の収集,6)史料/資料所蔵リストの作成と公開,6項目を実施する予定であった。 このうち,1)~4)までについては,完全には実施できてはいない項目もあるが,概ね当初の予定通り,実施できている。例えば,台湾と沖縄では現地調査を行うことができ,4)については,糖業協会の史料を閲覧し,複写することができた。 5)については,台湾を対象とした米国公文書館所蔵の航空写真は,台湾での入手に目処がついたため,また,沖縄を対象とした航空写真は,沖縄県公文書館で入手できたため,米国公文書館を訪問しなくとも,必要とする航空写真が入手できると考えられる。 6)については,リストの作成鋭意進めているが,まだ不完全なままであり,公開には到っていない。 このような進捗具合から,「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度では,サハリンでの現地調査を行うと共に,最重要地域である台湾での補足調査を計画している。また,国内の「精」糖工場の調査も進める。具体的には,以下のような項目について研究を進める。 1)戦前期の台湾における製糖工場と社宅街に関する現地調査(補足調査),2)戦前期の樺太における製糖工場(旧豊原)と社宅街に関する現地調査,3)日本国内の精糖工場と社宅街に関する現地調査(戦前期の「内地」では,内地以外で生産された原料糖を精製する「精」糖工場が15工場程度存在していたが,これらの工場や社宅などの付随施設の建設過程については不明な点が多い。各地の工場(東京,大阪,神戸,門司,福岡などに立地)についての現地調査と史料/資料の収集を行う。),4)戦前期の沖縄,朝鮮,満洲における製糖工場と社宅街に関する調査の継続,5)史料/資料所蔵リストの作成と公開,である。 また,最終年度の平成25年度では,製糖業を支える運搬・交通ネットワーク全体に関する調査を進める。具体的には,以下のような項目について研究を進める。 1)戦前期の満洲における製糖工場(哈爾浜と奉天)と社宅街に関する調査,2)製糖業を支える輸送システムとネットワークの形成が周囲の都市や市街地の与えた影響に関する文献調査,3)各地の製糖工場と社宅街に関するこれまでの調査の継続,4)史料/資料所蔵リストの作成と公開の完成 さらに,(1)製糖業を成立させるためのネットワークの形成,(2)工場とそれを取り巻く社宅街と都市全体,もしくは周囲の都市や市街地との関係性,(3)気候にあわせた居住システムの構築,の3つの視点から,東アジアの歴史の新しい理解の枠組みを提示することを目標に,東アジア全体を視野に入れて,製糖業によって形成された都市もしくは街とネットワークについて考察を行い,得られた結果をとりまとめ,成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では,以下の様に研究費を使用する計画である。合計1045千円(当初計画額:900千円,前年度未使用額145千円)。 消耗品費:150千円。うち,図書・各種史料/資料(植民地関連図書,製糖業関連図書,台湾・サハリンでの現地購入分も含む)100千円,一般文具(ファイル,筆記具,ノート,記録メディアなど)50千円。 旅費:720千円。うち,国内旅費220千円(国内の精糖工場の現地調査,東京方面100千円,関西方面70千円,福岡方面50千円)。外国旅費500千円(台湾での現地調査・資料収集250千円,サハリンでの現地調査・資料収集250千円)。 謝金など:84千円。うち,台湾での現地調査補助(1人×7日)49千円。サハリンでの現地調査補助(1人×5日)35千円。 その他:91千円。うち,航空写真購入費60千円。複写・印刷費31千円。
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