研究課題/領域番号 |
23560770
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
後藤 治 工学院大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50317343)
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キーワード | 歴史的建造物 / 文化財 / 近代化遺産 / 文化的景観 / 産業遺産 / 仮設物 / 自然素材 / リサイクル |
研究概要 |
1年目に続き、県内に現存する農林水産業に関わる歴史的な建築遺産の悉皆調査を中心に、調査研究を実施した。あわせて、施設の詳細な調査として、下田市・西伊豆町の天草関連施設を対象に調査を実施した。調査にあたっては、単に建築物や工作物を調査するだけでなく、農林水産業に関わる一連の作業工程の調査も実施した。また、関連する施設として、研究所、試験場、産業機械等の調査も行った。 1年目の調査成果については、日本建築学会において発表を行った。本年度までの調査の結果、調査の対象が、仮設物、常設の簡易建築物・工作物、建築物、土木構造物、生垣類に分類できることがわかった。仮設物には、水産物や農作物を干すための施設が含まれる。また、調査の結果、これまでの研究では調査されていない、農林水産業特有の建築物や工作物を発見することができた。同時に、農業や漁業の四季を通じての「建築」を介した営みや行為、把握し記録することができた。また、昨年度も浜松市篠原町の大根干しが2件のみになったなど幾つかの継承の危機が確認されたが、今年度も、掛川市の砂の飛散防止用の仮設物が次年度行われない可能性があることや、富士市の古い製茶工場がほとんど現役としては使用されなくなったことなど、その継承が懸念される問題が幾つか確認された。継承の危機にある農林水産業に関わる伝統的な工法や考え方を持った仮設物や建築物を後世に継承していくためには、早急な記録作成が必要である。その一助となっていることが、本研究の最大の意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、農林水産業の生産や加工に関わった歴史的な建築物・工作物や仮設物を網羅的に調査すること、並びに、いくつかの施設について詳細な調査研究を行うこと、のふたつを当初目的で掲げている。現時点で、静岡県内のほぼ全域において調査を実施できており、かつ、詳細調査も数か所で実施できており、いずれの目的も概ね達成されている。ただし、詳細調査については、発見した施設の所有者が発見できない場合も多く、候補となるもの全ての調査ができているわけではない。また、天気に左右されることが多いため、情報が得られても、同じ地域に何度か足を運ぶことになるという不合理な面もあり、実施時期が年度の後半が中心となった。なお、本研究は、静岡県内における調査研究を主な目的としているが、調査の過程で、県内の遺産と比較すべき事例が、他の都道府県においても存在するという情報が得られたため、そのいくつかについても調査研究を行った。 研究成果の公表については、日本建築学会での発表の他、Facebookを利用して、それを行っている。学会では、前年度の成果を中心に、Facebookでは調査の速報を中心に公表した。査読付論文については、上記のような詳細調査の状況から、詳細調査の時期が年度末に近い時期となったため、年度内には予定した成果をあげられておらず、今後の研究における課題として残った。なお、成果の公表を目的とした図書の出版も企画し、それを進めたが、年度内の出版にはいたらなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、詳細調査を中心に行う。具体的な対象としては、例えば魚市場やミカン貯蔵庫の調査を予定している。また、平成24年度までに調査を行ったものについても、聞き取り調査と実測調査を中心に、補足的な調査を行う。また、県境にあたる部分に、悉皆調査ができていない箇所があるので、悉皆調査を行う。同時に、詳細調査の過程で、悉皆調査を補足すべき対象が発見された場合には、その調査を行い、悉皆調査の結果を補充する。 平成25年度の調査結果について、引き続きFacebookを利用して速報を行う。同時に平成24年度までの成果をもとに、日本建築学会において学会発表を行う。また、論文(査読付を含む)を作成し、学術誌上において公表する。また、本調査研究の成果を含む書籍を出版する。また、調査研究の結果をまとめた報告書の簡易製本を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費の使用方法は下記の通りを予定している。 現地調査を行うための出張旅費 550千円 調査及び実測の清書等に必要な謝金 200千円 学術雑誌への投稿等に必要な登録料等 60千円 調査成果のまとめの簡易製本費用 80千円 通信費等 27千円
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