研究課題/領域番号 |
23560782
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
毛利 哲夫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20182157)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | k空間 / クラスター変分法 / 平衡状態図 |
研究概要 |
本研究の目的は、相変態を、形成相を特徴づける濃度波(R変態)や格子波(D変態)の励起・増幅・伝播の過程として捉え、濃度波と格子波を統一した結晶波に基づいてk空間の相変態理論を構築することにある。特に、自由エネルギーの2階微分の消失する条件から、平衡状態図に相境界線に加えて系の自発的な安定性の破れを示す臨界安定線を導入し、相平衡・揺らぎ・前駆現象の3者の系統的な解析を行うことが具体的な計算の対象である。平成23年度においては、従来のクラスター変分法(CVM)に加えて、連続変位クラスター変分法(CDCVM)の定式化を行い、これを多元系の自由エネルギー関数として算出することを目標とした。Fe-Pt系はこれまでに相平衡状態図の第一原理計算を鋭意実行してきた系であり、自由エネルギーの近似度も数値計算の精度も共に十分に確認済みであるが、平成23年度はこの系を対象にして系の配列揺らぎに対する自発的安定性の消失する臨界温度(濃度)を求めることに成功し、既に論文として公表した。このような、臨界温度―濃度曲線はスピノーダルオーダリング線と称されているが、Fe-Pt系で算出した<100>スピノーダルオーダリング線は不規則-L10の相境界線の下方に位置し、このことからL10変態が一次変態であることが確認できた。又、短範囲散漫散乱強度のスペクトルは、この系が<100>揺らぎに対して不安定であることを示した。連続変位クラスター変分法に関しても面心立方晶系に対して対近似の範疇で定式化を行い、原子の局所配列の情報を散漫散乱強度として導出する手法を確立し、国際会議の招待講演で発表、公表論文として投稿中である。又、連続変位クラスター変分法では、準格子点の数を多くとって計算精度を上げる為には計算機の記憶容量から大きな制約が課されるが、今後、高近似の計算を行う為に、数値計算上の問題点についても検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は初年度であったが、既にFe-Pt系を対象にスピノーダルオーダリングの温度―濃度曲線(スピノーダルオーダリング線)の第一原理からの算出に成功し、又、散漫散乱強度のスペクトルの計算も行った。これらの結果は不規則―L10変態が一次変態であるという実験事実と矛盾がなく、又、スピーノーダルオーダリング線は、濃度揺らぎによる安定性が自発的に消失する濃度や温度等、実験で得られていない情報をも予測しており、今後の散乱実験等に一つの指針を提供するものである。又、これらの結果は既に公表しており、濃度波の解析や予測に関する研究は順調である。さらに、本研究では格子の局所変位や格子波を取り扱う為に連続変位クラスター変分法の開発が必須であるが、既に面心立方晶に対しては対近似の範囲で計算を実行し、結果は複数の国際会議の招待講演で発表している。このように、全体の研究は極めて順調に進展している。しかし、本研究においては、格子変位に伴う格子波を多元系の濃度波に変換する理論の構築が中核部分に位置しているものの、本年度は上述の様な数値計算に焦点を絞った為、理論の構築という点においては必ずしも特筆できる状態にはない。これが(1)ではなく(2)という自己評価を行った理由である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までにスピノーダルオーダリング線及び散漫散乱強度の第一原理計算を行った。今後はこの計算をFe-Pt以外の合金系に適用する。特にFe-PdやFe-Ni系はFe-Pt系と同じく50%近傍でL10相の形成が予測・確認されており、これらの2つの系に対して第一原理計算を実行し、相平衡状態図中に<100>スピノーダル線を特定する。しかし既述のように、本研究の中心課題は濃度波のみならず格子波の定式化と解析を行うことであり、この為には連続変位クラスター変分法による多元系の濃度波と格子波の変換理論の構築が必須である。連続変位クラスター変分法の計算は対近似の範疇ではほぼ完成の域にあり、2次元正方格子、または、fcc格子を対象にして理論の構築を試みる。多元系の短範囲散漫散乱強度と、2元系の格子変位に伴う散漫散乱強度を算出し、この両者を比較することで理論の正当性を検証する。又、fcc系においては近似度の高い四面体近似の計算が望まれるが、現段階では未完の状態である。平成24年度は四面体近似の計算を完成させ、相平衡状態図の計算を試みる。特に、規則―不規則変態温度が、従来のクラスター変分法と連続変位クラスター変分法で、原子サイズの差に応じてどの様に変化するかに焦点を置いて計算を行う。現段階ではLennard-Jones系を対象にした計算を行う予定であるが、計算の進展状況に応じて第一原理計算に展開を図っていく。連続変位クラスター変分法は大規模な数値計算が必須であり、スパーコンピューターの活用が必須となる。又、スーパーコンピューターの活用前の準備計算としてワークステーション等を用いて並列計算による計算量の効率化の知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は当初購入予定をしていたワークステーション等の計算機の設備備品の購入を見送った。これは当研究室の現有の計算機が順調に稼働しており、これを用いて23年度に予定していた結果を算出することができた為である。又、計算機そのものの購入よりも、計算に必要なソフトを購入する必要性が生じつつあり、次年度の研究の進展状況を勘案しながら設備備品費を効果的に使用した方が良いとの判断をした為である。上の「今後の研究の推進方策」に記したように、次年度はスピノーダルオーダリング線の計算を他の系に拡張する。この計算は、今年度において手法をほぼ確立させているものであり、ソフトの導入や学生の雇用等により、円滑に進展させたい。この為に上述の様に今年度の未使用額をソフトウェア購入費用等に使用する予定である。次に、次年度の計算の中核は連続変位クラスター変分法を用いた濃度波と格子波の統一的な記述であるが、これにはかなり負荷の高い計算が見込まれるため、スーパーコンピューター、ワークステーション、PCなどを系統的・効果的に用いる必要がある。本学を始めとするスーパーコンピューターの使用料金や、ワークステーションの更新維持費用、PCの購入費に、今年度の設備備品費の一部を計上する。又、既に本年度の段階で発表・公表し得る計算結果が出ており、次年度に予定されている複数の国際会議や国内の会議・研究会で発表を行う。この為の旅費にも使用予定である。
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