研究課題/領域番号 |
23560782
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
毛利 哲夫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20182157)
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キーワード | スピノーダルオーダリング / 散漫散乱強度 / Fe-Niインバー合金 |
研究概要 |
拡散型変態(Replacive)も変位型変態(Displacive)も、変態過程は、原子の拡散、格子の集団変位、内部組織の形成など実空間で議論される場合が多い。これに対して、これらの相変態を、形成相を特徴づける濃度波(R変態)や格子波(D変態)の励起-増幅-伝播の過程として捉え、濃度波と格子波を統一した結晶波に基づいてk空間の理論を構築するのが本研究の目的である。具体的には、平衡状態図の計算と、濃度波の自発的な励起の生じるスピノーダルオーダリング線の算出、さらには散漫散乱強度を求めることである。平成23年度には、この一連の計算をFe-Pt系に対して実行し、妥当な結果を得ることができた。平成24年度はFe-Ni系に計算を拡張した。Fe-Ni系はinvar合金として知られているばかりでなく、1:1組成近傍の規則相(L10相)の存在についても多くの議論がなされてきた。我々の今年度の研究からこの規則相の変態温度を予測し、スピノーダル線の計算からL10-disorderの変態が一次変態として起こる組成域と、二次変態になる組成域のあることを見出した。又、散漫散乱強度の計算も行ったが、計算結果は<100>濃度波が優先的に励起・増幅されることを示唆しており、これはL10規則相が安定に存在するという計算結果を矛盾なく説明する。また、invar特性に及ぼす規則―不規則変態(特に短範囲規則度)の影響についても言及した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe-PtおよびFe-Niについて、当初の予定である相平衡状態図、スピノーダルオーダリング温度、散漫散乱強度の3つの量を第一原理から矛盾なく算出することができた。又、これらの計算にはDebye-Gruneisen modelに基づいて熱膨張(格子振動)の効果も導入し、相平衡や相安定性(但し、有限温度における揺らぎに対するintrinsic stability)に及ぼす格子振動の効果も検討することができた。このように、濃度波のフーリエ変換に基づく諸々の計算は系を変えてもルーチン的に実行できる段階にある。 しかし、格子波の理論計算は進展が鈍い。これには格子波の計算に欠かすことのできない原子変位を連続変位クラスター変分法(Continuous Displacement Cluster Variation Method; CDCVM)で計算する必要があるが、fccやbccの3次元系に対してCDCVMの効率的なプログラムの構築が遅れているためである。かかる計算には大きな記憶容量が要求される為にスーパーコンピューターが必須であり、平成25年度にはこの方面への展開を加速する。 一方、今年度のFe-Niに対する計算からは、invar特性に及ぼす短範囲規則度の影響について知見を得ることができた。これは当初の研究の予定には入っていなかったことであるが、invar特性が磁性に由来するとする従来の主流的な考え方とは異なるものであり、新たな研究対象を提起できる可能性がある。このように格子波の計算は多少遅れているが予期しなかった成果も得られれた。
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今後の研究の推進方策 |
Fe-Pt, Fe-Niに対して第一原理から相平衡状態図、スピノーダルオーダリング温度、散漫散乱強度の3者を整合的に算出できる手法を確立できたので、これをFe-Pd等の系に拡張し、一連のFe基合金について統一的な知見を得ていく。又、フェーズフィールド法を援用することで、核生成領域での規則化とスピノーダルオーダリング領域での規則化が内部組織に及ぼす影響の違いについても調べ、スピノーダルオーダリングを利用した材料設計(内部組織の調製)の可能性を探る。 一方、格子波はCDCVMの範疇で取り扱う必要があり、超多元系の相平衡やフーリエ変換の計算を遂行する。CDCVMは2次元系に関しては定式化が終了し、妥当な結果が得られているので、鋭意、3次元の実際の合金系に拡張する。超多元系の相平衡と揺らぎに対する応答の計算は理論の枠組みを整備することが必須であるが、このような理論の構築は既に開始している。しかし、次元が変わると計算量は飛躍的に増大し、質の異なる計算手法を要求されることが分かってきた。今後の大きな課題は大規模計算の実行である。効果的な並列化と効率的な記憶容量の使用等、数値計算の技術的な問題点を如何に解決していくかに今後の研究方針の重点を推移させていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究室所有の計算機資源が比較的安定に稼働し、これを用いて計算が実行できた為に新たに高価な計算機の購入の必要がなかったこと、さらに、計算機の維持費に関しても他の経費で充当することができたこと、これらの理由により繰越金が生じた。これまでの計算状況を鑑みると、中規模もしくは小規模の計算や、大規模計算に至るまでの予備計算にはワークステーションやPCクラスターの方が便利であり、この為に、平成25年度にハイエンドのPCもしくはワークステーションの購入に繰越金を使用する。又、平成25年度に開催される国際会議ので招待講演の依頼が2件程度来ており、これらは当初予定していなかったことであるが、これらの会議を始めとする国際会議や国内の会議・研究会への参加旅費に繰越金の一部を計上する。
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