研究課題
本研究の目的は、炭素系物質の様々な非平衡状態の重畳効果を用いた欠陥エンジニアリアリング研究を発展させることである。炭素系物質は、黒鉛やダイヤモンド、フラーレン、グラフェンなどの多様性を示すが、粒子線照射や衝撃圧縮、熱衝撃、ボールミリングなどの非平衡環境下での変化は、更なる多様性と発展性を秘めている。また、高エネルギー粒子線照射下の炭素系物質の物性変化を調べることは、次期エネルギー源である核融合炉材料の損傷過程の解明につながる重要な研究である。高エネルギー粒子線照射と衝撃圧縮などの異なる非平衡状態を重畳させることによって、新たな物質環境が醸成され、新材料創製の場となる可能性がある。これまで中性子照射黒鉛を初期試料としてアモルファスダイヤモンドを作ってきたが、今回、横浜市立大学との共同研究で、初期試料としてカーボンウォールを用いて衝撃圧縮を行った。カーボンナノウォールは、微細なシート状の物質で、ラマンスペクトルはシャープなピークの形状を示すが、ラマン強度比(D/G)が大きく、微細黒鉛から成っていることを示す。この試料に衝撃圧縮を行ったところ、中性子照射試料の比べて、より高い圧力で透明な破片状物質を回収した。この物質は、アモルファスダイヤモンドと超硬黒鉛状タイルが混在した物質である可能性が示唆された。また、照射によって生成される欠陥構造に関する情報を得るために、兵庫県立大学との共同研究で多層カーボンナノチューブと多層グラフェンにアルゴン照射を行い、その構造変化が、黒鉛とほぼ同じ過程でアモルファス化が起こることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、アモルファスダイヤモンドの生成過程および高エネルギー粒子線照射下での損傷過程を明らかにすることを目的としている。アモルファスダイヤモンド生成の新たな初期試料として中性子照射試料以外の試料が求められる。今回、カーボンナノウォールを用いて衝撃圧縮超急冷法を用いた実験を行い、中性子照射試料に比べて、より高い衝撃圧力で透明な破片が回収され、初期試料および創製物質に関しての新たな進展があった。また、中性子照射によってアモルファスダイヤモンドが形成される過程を解明する上で、照射下での欠陥の生成過程を明らかにする必要があるが、カーボンナノチューブとグラフェンのイオン照射下での欠陥の蓄積過程に関して調べ、黒鉛とほぼ同様のプロセスでアモルファス化することが分かり、欠陥の生成に関しての情報が得られた。
平成24年度までに得られた結果をもとに、中性子照射試料に対して中性子照射量および衝撃圧縮の条件を変化させて、アモルファスダイヤモンド生成に関して、より詳細な照射量および衝撃圧力依存性を調べる。また、初期試料としての中性子照射欠陥の性質を明らかにするために、原子間力顕微鏡や様々な分光法を用いて欠陥に関しての結合や構造に関しての情報を集める。衝撃圧縮のための初期試料を中性子照射黒鉛試料のみではなく、カーボンナノウォールやボールミリング試料などでの可能性を探る。それらの試料を初期試料として、衝撃圧縮を行い、アモルファスダイヤモンドの生成の可能性に関して調べる。このように異なる初期試料の結果を比較することによって、アモルファスダイヤモンド変換に関係する欠陥の役割か明らかになると期待される。
アモルファスダイヤモンドの生成に関係する黒鉛の照射欠陥を調べるための原子間力顕微鏡の消耗品である電流モードなどの短針、ボールミリング、衝撃圧縮のための各種黒鉛試料、試料容器、写真プリントのためのトナーを購入する。また、研究成果の発表のための国際会議、国内での学会発表の参加費、旅費、宿泊費に使用する予定である。
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