研究課題/領域番号 |
23560793
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研究機関 | (財)名古屋産業科学研究所 |
研究代表者 |
水谷 宇一郎 (財)名古屋産業科学研究所, その他部局等, 研究員 (00072679)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ヒュームロザリー型相安定化機構 / FLAPW-Fourier法 / 近似結晶 / 準結晶 |
研究概要 |
研究代表者は第一原理バンド計算法の一つであるFLAPW法の特徴を活かしてFLAPW-Fourier法を開発し,金属間化合物のFermi直径とFermi準位に生成する擬ギャップの成因に預かる格子面群を抽出する画期的な手法を開発してきた。本研究はこの手法を使って、1原子あたりの電子濃度e/aに依存するHume-Rothery型相安定化機構の本質を追求する.具体的には、市販のWIEN2k-FLAPWパッケージを用いてFLAPW-Fourier法を実行し,巨大単位胞を持つ近似結晶群から周期律表の元素まで空間群,単位胞サイズが異なる金属間化合物について1原子あたりの電子濃度e/aとフェルミ準位で干渉する格子面群を決定し,平均の価電子数の概念及び Hume-Rothery型相安定化機構の有効性を明らかにする.平成23年度の研究成果は以下の通りである。1. 単位胞に160個の原子を含む複雑系としてRT型Al-Mg-Zn及びAl-Li-Cu1/1-1/1-1/1近似結晶及び遷移金属を含むMI型Al-Mn, Al-Re, Al-Re-Si, Al-Cu-Fe-Si, Al-Cu-Ru-Si1/1-1/1-1/1近似結晶について、FLAPW-Fourier解析を実行した.その結果、RT-, MI-型近似結晶に共通にFermi直径は50であり、さらにFermi準位上の電子はG2=50に相当する格子面群と干渉を起こして擬ギャップを形成していることを実証し,Hume-Rothery型相安定化機構が成り立っていることを示した。2. 単位胞内原子数=26, 58の複雑系金属間化合物に対しても同様な解析を実行し、フェルミ準位の電子が干渉する格子面群と電子のFermi直径を求め、Hume-Rothery電子濃度則が成り立つことを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題において単位胞内に130から160個の原子を含む近似結晶群についてその擬ギャップ成因機構を電子の干渉効果で説明し、干渉に預かる格子面群を抽出することは準結晶の分野で喫緊の課題であった。平成23年度にはRT型およびMI型近似結晶群を選択し、この大きな課題を成功させた。そして、このテーマでPhilosophical Magazineに成果を公表出来た。この複雑構造系に加えて、その他の種々の単位胞を持つ金属間化合物群についてもFLAPW-Fourier解析を進めた。これらの金属間化合物のe/aの決定とその組成依存性から遷移金属元素に外挿したe/a値を求めてきた。今、そのデータは着実に蓄積しつつある。また、Hume-Rothery型相安定化機構に従う系とそうでない系の存在が明らかになりつつある。以上のように、研究の目的は順調に達成されていると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度には、RT型およびMI型近似結晶についてその生成機構に関する大きな成果を得た。正20面体型準結晶の原子クラスターにはRT型、MI型クラスターに加えて、2000年には新しくTsai型クラスターの存在が見つかった。平成24年度には、Cd6Ca, Cd6Yb, Zn6ScなどTsai型1/1-1/1-1/1近似結晶に対してFLAPW-Fourier解析を進める。RT, MI, Tsai型に共通な擬ギャップ成因機構が明らかになれば、正20面体型準結晶の成因機構の研究分野において大きなインパクトを与えると期待している。また、Al-TM (K-As), Al-TM (Rb-Sb), Al-TM (Cs-Bi)系に存在する単位胞サイズ、空間群の異なる数百を超える金属間化合物についてFLAPW-Fourier解析を実行し、Fermi直径の決定とFermi面上の電子が干渉を起こす格子面群の抽出を行い、相の安定化機構とe/a問題の統一的描像を確立していく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、2012年9月にオーストラリアで開催されるInternational Conference on Aperiodic Systemsに出席し、我々がこれまでに得た成果を発表する計画である。これには研究代表者水谷宇一郎と連携研究者佐藤洋一が参加し、研究成果を発表すると同時に、内外の研究者と意見交換を行うことにしている。また、国内では2012年9月に開かれる日本物理学会にてこれまでの成果を公表する計画である。以上の目標を実現するため、外国及び国内旅費として直接経費より80万円を計上している。本研究はコンピュータを使った理論計算が中心をなしており、コンピュータの増設と維持管理が欠かせない。そのために物品費として直接経費より60万円を計上している。
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