研究課題/領域番号 |
23560793
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研究機関 | 公益財団法人名古屋産業科学研究所 |
研究代表者 |
水谷 宇一郎 公益財団法人名古屋産業科学研究所, その他部局等, 研究員 (00072679)
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キーワード | ヒュームロザリー型相安定化機構 / FLAPW-Fourier法 / 近似結晶 / Germany / Kassel University |
研究概要 |
単位胞に2個から1178個までの原子を含む種々の単位胞サイズの金属間化合物の中でフェルミ準位に擬ギャップを形成している系を抽出し、我々が開発したFLAPW-Fourier解析法により、擬ギャップの成因がHume-Rothery型相安定化機構で統一的に説明出来るかどうかを調査する研究を遂行している. 平成24年度の成果として、9月上旬にオーストラリアのケアンズで開かれたAperiodic2012に参加し、単位胞にそれぞれ336個と168個の原子を含むZn6Sc及びCd6Ca近似結晶について、1原子あたりの電子濃度e/aとFermi準位の電子と相互作用するBrillouin zoneの抽出を行い、これらの化合物では、Hume-Rothery相安定化機構が働いて安定化していることを示す発表を行った.また、準結晶の発見で2011年ノーベル化学賞を受賞したイスラエルのShechtman博士に捧げる記念論文集の出版に際して、我々は本研究のこれまでの成果を発表し国際貢献を果たした.その中で、遷移金属元素に対して負のe/a値を提唱するRaynorモデルを使って、Tsaiらは彼らが発見した一連の準結晶がe/a=1.8で安定化していると主張してきたが、我々はこの問題をFLAPW-Fourier法で理論解析を行うことで正しくはe/a=2.2で安定化していることを明らかにした. 本年度には、また、周期律表元素のe/aをFLAPW-Fourier法で精度高く評価する手段として4面体法と重心法を確立し、3d遷移金属とその化合物のe/aを決定することが出来た.その結果、大部分の化合物のe/a値はその単位胞のサイズ、結晶構造、結合形態によらず、構成元素が持つe/aの組成平均で決まることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度には、単位胞内に138から160個の原子を含むマッカイ正20面体(MI)型及び菱形30面体(RT)型近似結晶を扱い、その擬ギャップ成因機構を電子の干渉効果で解析し、Hume-Rothery型相安定化機構が支配していることを証明した.また、その他の種々の単位胞を持つ金属間化合物群についてもFLAPW-Fourier解析を進め、これらの金属間化合物のe/aの決定とその組成依存性からMn, Feなど代表的な遷移金属元素のe/a値を求めた。 平成24年度は、周期律表の周期4に属するKからCuまでの11個の元素についてそのe/aを決定した.この際、遷移金属元素のe/aを精度高く決定する数学的手法として4面体法と重心法を確立した.この手法を活かして、これらの元素とAlなどの多価金属元素で得られる46個の金属間化合物についてe/aの決定と遍歴電子の干渉条件を調べた.この中には、最小2個から最大336個までの単位胞サイズが幅広く異なる系が含まれた.単位胞に含まれる原子数が20以上の系において、擬ギャップが見つかり、その成因を遍歴電子の干渉効果で解析し、Hume-Rothery型相安定化機構の成立を結論した.その成果はPhil.Mag.に掲載されることとなった. 1/1-1/1-1/1近似結晶は原子クラスターで3つのグループに分類されている.平成23年度にはマッカイ正20面体(MI)型及び菱形30面体(RT)型近似結晶を、平成24年度にはTsai型近似結晶Zn6ScとCd6Caを解析した.そして、それぞれに存在する干渉条件を導き出し、これが3グループに共通であることを発見し、同一のHume-Rothery型相安定化機構が成り立っていることを示すことが出来た. 以上のように、2年経過した時点で、研究の目的は順調に達成されていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、周期律表の周期4に含まれるKからCuまでの11元素とその44個の金属間化合物について、e/aの決定と干渉効果の抽出に成功した.平成25年度は周期5に含まれるRbからAg及び周期6に含まれるCsからAuまでの合計22個の元素及びその膨大な化合物群についてそのe/aの決定と干渉条件の成否を調べる計画である.これにより、単位胞サイズ、結合形態、結晶構造が異なる極めて多岐にわたる遷移金属の化合物群についてHume-Rothery型相安定化機構の統一的描像の確立が見込めると期待している.
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年9月上旬にPoland, Cracowで開かれる第12回準結晶国際会議に出席し、本テーマの研究成果を報告する 計画である.この会議には研究代表者水谷宇一郎が参加し、研究成果を発表すると同時に、内外の研究者と意見交換を行う.また、国内では2014年3月に開かれる予定の日本物理学会にてこれまでの成果を公表する計画である.以上の目標を実現するため、外国及び国内旅費として直接経費より約40万円を計上したい. 本研究はコンピュータを使った理論計算が中心をなしており、コンピュータの増設と維持管理が欠かせない.これを物品費として直接経費より計上する計画である. 次年度使用額は、24年度末学会参加旅費の金額未確定分の支出及び25年度物品費に組入れて使用計画をしている.
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