研究課題/領域番号 |
23560797
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
単 躍進 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20272221)
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研究分担者 |
井本 英夫 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20168529)
手塚 慶太郎 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00334079)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アルミナ蛍光体 / 溶液法 / 低温合成 / アモルファスアルミナ |
研究概要 |
われわれは,普遍的に存在するアルミニウムを用いて,独特の溶液法により,蛍光を示すアルミナの合成を見出し,安価な原料と比較的低温(~720℃)の加熱よりアルミナ蛍光体の合成法を確立した。成果は以下にまとめる:1)合成方法:硝酸アルミニウム水溶液にジエチレングリコールを加え,エバポレーターを用いて,80 ºCにおける加熱・濃縮により,ゾル状の試料を得た。得られたゾル状の試料を,空気中350 ºCで3時間 (第一加熱),続いて700 ºC付近で約2時間の加熱(第二加熱)により,蛍光体試料を合成した。この合成方法は,再現性よく,得られて物質も発光強度が強い。2)蛍光特性:得られたアルミナ蛍光体は, 280 nmの励起波長において約400 nmの青色発光を示した。さらに,一度光を照射してから遮断しても発光し続け,その寿命は長いもの(200 msec)と短いもの(30 msec)があった。3)構造の特徴:得られたアルミナ蛍光体のXRDパターンに回折ピークが見られなかったことから,アモルファスであると判断した。27Al-NMRの測定結果から,アモルファス試料中のAlは酸素と4配位,5配位,6配位となり,得られた各シングナルの面積比は1:1.6:1.96であった。長距離的な原子配列の規則性が見られなかったが,近距離的にはAlは4~6の配位をとっていた。また,5配位のAlは, 6配位のAlの6個の酸素から一つを抜いた状態であり,酸素欠陥を有していると考えられる。このような酸素欠陥に電子が1つトラップされるとF中心となり,照射された光の吸収により発光する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の通りに,初年度の目標が達せした。初年度の研究計画に従って,「無毒・安価な新規酸化物蛍光体の合成法の確立」に重心を置き,酸化アルミニウム蛍光体の合成法について検討した。具体的には,a)種種の水溶性有機溶媒の検討;b)試料液の濃縮および焼成温度や雰囲気などプロセスの詳細条件と得た物質の蛍光性と関連付けて検討;c)合成法の再現性,などの調査を行い,最終的に,安価で高輝度のアルミナ蛍光体の新しい合成法を確立した。ただし,当初の研究計画にはスピネル型酸化物ZnAl2O4の蛍光体開発も含まれていたが,アルミナでも蛍光を示すことが分かってから,もっと単純な二元系酸化物―アルミナ蛍光体の合成法の確立を目標とした。また,宇都宮大学分析室に拡散反射測定ユニット付の赤外分光計を導入されたことにより,購入予定の赤外分光計の付属品が買わなく,研究を進めた。節約された備品代は,蛍光物質の発光メカニズムの追求とEL性の検討に充てたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って,平成24年度から蛍光物質の発光メカニズムの解明,およびLED素子への展開を行う。(A)発光のメカニズムの解明:平成23年度の「合成条件確定」の研究に続き,得られた蛍光体物質の結晶構造や,粒径および蛍光特性を測定し,新規蛍光体の特性を評価する。既存のTG-DTAにMS測定システムを加えた装置を組立て,合成過程における反応および生成物質に含まれている酸素欠陥や炭素などを調べる。また,蛍光特性とESRや分光分析,元素分析などと相互にして検討し,発光のメカニズムを突き止め,さらに高性能の蛍光体の開発につながる。(B)EL素子の開発:新規蛍光体の実用化にはEL性の検討が欠かせない。本研究は次の2項目に重点を置く。(i) 分散薄膜の作製:得られた粉末試料を凝集せずに分散できる分散剤を探索し,スピンコーティングや,ディップコーティング手法を用い,均一な薄膜の作製方法を検討する。(ii) ELデバイスの構築と評価:(i)に続き,透明電極膜の上に分散膜を作製する方法,さらに,ELデバイスの構造を検討する。一方,EL評価装置(分散膜試料に高電圧の印加システムとPL評価システムの組合せ)を構築し,新規酸化物蛍光体のEL性を評価すると共に,新しいLEDデバイスの開発のアプローチを得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度の主な研究内容は,開発された蛍光物質の発光メカニズムの解明とEL性の検討である。EL性の検討には膜作成が必要であり,ディプコーデング装置やマルチチャンネル分光器の購入を予定し,EL測定用試料ホルダーの試作費や透明電極基板の購入代も必要である。これらのEL性評価に関わる装置は,平成23年度分の費用で購入する。一方,発光メカニズムの解明には,現有の赤外分光装置,TG-DTA装置およびESR装置を使用するが,それらの測定の消耗品の購入を計上した。その他の消耗品として,高純度試薬,雰囲気ガス,磁性ルツボ・ボートなどの購入,測定装置の借用費用(旅費を含む)や,学会での情報収集,学会発表のために経費,大学院生の研究補助に対する謝金なども計上している。これらの部分の費用は,平成24年度分で任せる。
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