研究概要 |
我々は,数年前に希土類フリーのアルミナ蛍光体の合成に成功したが,その発光起因は解明まで至っていない。また実用化を見据えた場合,合成法はより簡便かつ高収率であり,さらに量産に適している必要があるため,従来の研究室規模の合成方法の改善が求められている。そこで本研究では発光メカニズムの再検討と合成法の改善を目的とした。 (1) 製造工程の簡略化:原料の硝酸アルミニウムを水溶液せずに,直接用いることで濃縮の工程を削除した。また,最終の加熱温度を20℃アップするだけで,簡略工程で作製された試料の蛍光特性が簡略前と同等であった。さらにアルミニウムに対するジエチレングリコールの添加量R(=DEG/Al)を変化させて,最適な添加量(R=1/4)を検討した。 (2) 発光メカニズムの検討:ESR測定から,炭素の電子スピンと一致するシグナルが観測された。炭素源となるDEGを使用せずに得たアモルファスアルミナは発光を示さなかったが,炭素源(DEG)を加えて再加熱すると蛍光特性を付与された。発光には炭素不純物が必要である。結晶化アルミナに炭素源(DEG)を加えて加熱し,蛍光特性を示さなかったため,アモルファス状態も発光に深く関係していると考えられた。さらに,第一原理計算で見積もったアモルファスアルミナの酸素欠陥(0価, +1価, +2価)準位と,アルミナ蛍光体の3つの励起エネルギーと比較し,それぞれほぼ一致することから,励起機構には酸素欠陥が関わっていると思われた。発光には炭素が必要であることから,酸素欠陥のエネルギー準位と対応しない蛍光波長は,炭素不純物によるエネルギー準位に関係すると思われた。以上のことを総合して発光メカニズムを提案する:紫外光を吸収した電子は価電子帯から酸素欠陥準位に励起され,その後,一旦,炭素不純物準位にトラップされ,そこから基底状態に戻る時発光した。そのため,異なる励起波長でもほぼ同様の蛍光波長を示した。
|