研究課題/領域番号 |
23560804
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
岡村 総一郎 東京理科大学, 理学部, 教授 (60224060)
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研究分担者 |
飯島 高志 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (90356402)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 圧電 / 薄膜 / 空孔率 / 密度 / PZT |
研究概要 |
本研究の目的は、膜中に3次元的に空孔を導入し、その圧電特性への影響を明らかにすることである。平成23年度は、空孔率の異なる Pb(Zr,Ti)O3 (PZT)薄膜を作製し、その圧電特性を評価した。PZT薄膜の作製は、化学溶液堆積(CSD)法により行った。CSD法では、金属有機塩溶液をスピンコートし、仮焼により有機物の分解・除去を行ってアモルファス膜を形成し、このプロセスを必要膜厚になるまで繰り返した後、高温で本焼して結晶膜を得る。このとき、仮焼が十分でないと、膜中に有機物が残留し、それが本焼時にガスとして揮発するため、膜中に空孔が形成される。ここでは、その性質を逆に利用し、空孔率を調整した。スピンコートの回転数を1000~5000 rpm、仮焼温度を250~400℃と変化させ、最終膜厚約300 nmの20種類の薄膜を作製した。強誘電性の評価は、強誘電体薄膜テスターによるD-Eヒステリシス測定により行った。また、圧電特性の評価は、圧電応答顕微鏡(PFM)を用いて行い、変位-印加電場特性から圧電定数d33,AFMを算出した。いっぽう、空孔率の評価は、収束イオンビーン(FIB)加工した断面のSEM像を用いて行った。その結果、まず、仮焼温度を350℃とした一連の試料が、適度な空孔を含むとともに、良好な強誘電体を示すことを明らかにした。この350℃仮焼の一連の試料のSEM像から見積もった密度(=1-空孔率)は0.92~0.98、圧電定数は50~90 pm/Vであり、この範囲では、密度が低いほど、すなわち空孔率が高いほど圧電定数は大きいという関係が得られた。これは、適度な量の空孔が圧電特性を向上させる可能性を示す重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は空孔率と圧電特性の相関を明らかにすることを目的としており、その意味では計画通りの成果を得ている。空孔率の評価は、屈折率を指標として行うことも計画していたが、実際の試料では表面ラフネスの影響が大きく、断面SEM像から見積もった空孔率と異なった傾向を示したため、断面SEM像からの値を指標とした。膜厚の異なる試料についても実験を行ったが、必ずしも十分な圧電特性が得られておらず、引き続き検討している。
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今後の研究の推進方策 |
膜厚の異なる試料について検証を進めるとともに、空孔のサイズ制御にも挑戦する。また、空孔率と圧電特性に関して確かな結論を得るには、再現性の確認が重要であるので、試行回数を増やす。空孔率の算出方法についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、東日本大震災に伴う電力使用制限の影響で実験時間が制約されたため、消耗品の購入が当初計画よりも少なくなり、繰越金が発生した。平成24年度は、実験データの信頼性向上のため試行回数を増やすことを予定しており、繰越金は必要な消耗品購入に充てる。
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