研究課題
本研究の目的は、圧電体膜の微構造を不均一化し、それにより圧電特性がどのように変化するかを明らかにすることにある。これまで、仮焼温度等を変化させて空孔率の異なる種々のPb(Zr,Ti)O3 (PZT)薄膜を作製し、その比誘電率、膜密度と圧電特性との関係を評価した。その結果、膜密度(比誘電率)が低いほど圧電特性は上昇するという結果が得られた。これは、「適度な量の空孔が膜内に歪みの不均一化をもたらし、圧電特性を向上させる」という我々の仮説を支持するものであるが、空孔というよりもクラックに近い微構造を呈するものも含まれていた。そこで平成25年度は、PZT薄膜内部に直径5 nm程度の白金ナノ粒子を分散させ、緻密であるが、白金ナノ粒子近傍で歪みが連続的に変化する試料を作製し、特性を評価した。PZTの前駆体溶液に0~2 wt%の割合で白金ナノコロイド溶液を混合し、化学溶液堆積法により膜厚300 nmの薄膜を作製した。仮焼は350℃、本焼は650℃で行った。X線回折の結果、作製された試料はいずれもPZTペロブスカイト単相膜となっていることが確認された。また、電子顕微鏡による断面観察から、若干の空孔は存在するものの、総体的に緻密な膜が得られていること、また白金ナノ粒子は凝集することなく、一様に分散していることが確認された。圧電応答顕微鏡(PFM)により測定された、変位-印加電場特性の原点付近の傾きから見積もった圧電定数d33,effは、53.4~76.0 pm/V と、空孔導入により達成された前年度の33.9~49.5 pm/Vという値を大きく上回り、かつ白金ナノ粒子の混合割合が増えるにしたがって単調に増加するという結果が得られた。以上より、圧電体薄膜においては、微構造を制御し歪みをうまく不均一化することで、変形し易い格子を生み出し圧電性を向上させることが可能であると結論した。
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MRS Proceedings
巻: 1507 ページ: 21,26
10.1557/opl.2013.161