研究課題/領域番号 |
23560808
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松谷 貴臣 近畿大学, 理工学部, 准教授 (00411413)
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キーワード | 環境セル型透過電子顕微鏡 / 隔膜 / パルスプラズマ援用CVD / a-BCN薄膜 / a-SiCN薄膜 |
研究概要 |
近年、透過電子顕微鏡(TEM)を使用し、金属酸化物に担持された金ナノ粒子の触媒の反応機構や生体試料等を各ガス雰囲気下で観察する試みがなされている。この方法は、試料ホルダに環境セルと呼ばれる容器を取り付けて行われる。通常、電子線の発生は高真空で行われるため、電子顕微鏡鏡筒内と環境セルの間には、電子線を透過し、かつ雰囲気圧力に耐えうる隔膜が必要となる。本研究では、電子散乱が少なく、化学的安定で機械的強度が高いアモルファスの窒素炭化ホウ素(a-BCN)や窒素炭化ケイ素(a-SiCN)を、独自に開発した磁場援用パルスプラズマ化学気相成長法(MP-CVD)により作製し、環境セル用隔膜として使用することを試み、その基礎的研究を行うものである。 H24年度は、H23年度で開発したMP-CVDにより、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)を原料ガスとして用いたa-SiCN隔膜を開発した。各条件下において作製したa-SiCN隔膜をX線光電子分光法(XPS)、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)により化学結合状態を調べた。作製した隔膜群は、独自に開発した耐圧試験器によって測定し、隔膜の硬度と成分比の関係を調べた。さらに、MP-CVDに四重極管質量分析計(Q-mass)を設置し、隔膜作製中に生じる原料ガスの乖離および反応ガスを測定し、その隔膜生成メカニズムを探究した。作製した隔膜は、環境セル型透過電子顕微鏡に搭載し、電子線に対する強度を測定した。 XPSおよびFTIRの測定から、原料ガス、窒素およびアルゴンの混合比および圧力を変化させることによって、隔膜に含まれる窒素の結合がN-H結合からN-SiおよびN-C結合に変化することが明らかとなった。耐圧測定の結果から、この水素脱離が膜の硬質化に大きく依存していることが解った。また、Q-massの測定から水素脱離が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H24年度は、MP-CVD法により開発した隔膜の耐圧性および電子線照射の影響を調べることを目標とした。隔膜の耐圧性評価装置は、H23年度にすでに開発が完了しており、原料ガスの流量比および圧力によってどのように変化するかを測定した。a-SiCN隔膜作製において、圧力を一定に、窒素ガスの流量比を向上させることによって、膜中のN-H結合が減少し、N-Si,N-C結合が支配的な膜がFTIRおよびXPSの分析結果から明らかとなった。さらに原料ガス中の窒素ガス比を増加し、製膜時のガス圧力を減少することによって、同様な傾向を示すことが解った。また、N-H結合が少なく窒素が高濃度の隔膜は、膜厚あたりの耐圧が向上することが明らかとなった。MP-CVD製膜中におけるQ-massを用いた原料ガスのその場観察でも、水素脱離が確認されている(Ref. 山﨑 他、平成24年電気関係学会関西連合大会論文集 p.p.514-515. および山﨑 他、第14回IEEE広島支部学生シンポジウム大会論文集p.p.110-112.) さらに、環境セルへの応用を試み、電子線照射の結果、従来のa-C隔膜では電子線により数秒で破損するのに対し、開発したa-SiCN隔膜では、15分以上の耐久性を持つことが明らかとなり、反応ガス雰囲気中の金ナノ触媒の観察に成功した。観察中、触媒反応ガスを導入することで金微粒子が酸化チタン上にて回転することが解ったが、高分解能観察までには至っていない。(Ref. T. Matsutani et al, Vacuum, 88 (2013) 83-87) 電子顕微鏡観察の高分解能化には隔膜のさらなる薄膜化、高強度化が必要であることから、各隔膜作製条件においてQ-massを用いたプラズマによる原料ガスの乖離、反応機構と作製した隔膜の結合状態および耐圧強度の因果関係を調べている。
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今後の研究の推進方策 |
H23,H24年度に得られた結果から、環境セル型TEMの高分解能化には、電子線の散乱を極力防ぐために、さらなる隔膜の薄膜化が必要であることが解った。隔膜の硬質化には、膜中に含まれる原料ガスに由来する水素結合の脱離、すなわち、原料ガス(HMDSN)の高次の分解と窒素との再反応による膜中への高濃度化が必要不可欠であることが示唆された。そのため、Q-massを用いた原料ガスの乖離状態をモニタし、各実験条件(パルス電圧、パルス間隔のプラズマ生成条件やアシストガスの導入)でどのような分解生成物が発生するかを測定し、どの分解生成物が高強度隔膜を形成するのに必要な条件であるのかを検討する。これに伴い、プラズマ発生用パルス電源の改良と電極間に印加している磁場の高強度化を行う。発生した分解物のさらに高感度に測定するため、Q-massとMP-CVDのジオメトリ(特に排気系)の変更を行う。前年度同様に、各条件により作製した隔膜の化学状態をXPSおよびFTIR等を用いて測定し、耐圧性との因果関係を探究していく。今年度も引き続き、電子線照射による膜の物理的、化学的浸食の有無を評価する。さらに、環境セル型TEMに搭載し、反応ガス雰囲気中の金触媒の高分解能その場観察を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は主に、パルス電源の高出力化に伴う電源回路改良のための電子部品、Q-mass用フィラメント、原料ガスやアシストガスおよびCuメッシュ等の消耗品費を計上する。また、環境セル型透過電子顕微鏡は、協力研究者である名古屋大学の川崎 忠寛先生が保有しているため、名古屋大学にて実験を行うための旅費を計上する。さらに、得られた成果を学会にて発表するための旅費を計上する。 未執行分は、利息分のみであり、チャンバー用留め具を購入する予定である。
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