研究概要 |
近年,触媒や生体試料など,雰囲気ガスを必要とする高分解能その場観察を実現するため環境セル型透過電子顕微鏡(E-TEM)の開発が試みられている.通常TEMは高真空下で観察するため,鏡筒と反応ガス雰囲気に置かれた試料を隔離する試料室(環境セル)が設けられているものである.この環境セルには,光源である電子線を透過し,かつ環境セル内の反応ガスを封じる窓(隔膜)が必要となる.従来,隔膜にはアモルファスカーボン膜が使用されていたが,電子線の照射と反応ガスの影響により,数十秒程度で破損していた.本研究では,隔膜作製法として成膜速度が速く,被覆性に富むプラズマ援用化学気相成長法:PECVD法に着目し,アモルファスSiCN (a-SiCN) 隔膜の開発および特性評価を行った. 本年度は,昨年度同様,成膜時圧力変化,窒素ガス流量変化および成膜電圧変化における隔膜の開発について行い,その特性評価を行った.窒素ガス流量比を向上させ成膜時圧力を下げ,高電圧で製膜することで,耐圧性および電子照射の耐久性ともに高強度な隔膜の作製に成功し,30分以上の環境セルにおける観察を可能とした.各条件下で作製した隔膜群を赤外分光光度計およびX線光電子分光法の結果から窒化の促進および水素結合の減少が,高強度化につながっていることが明らかとなった.さらに,4重極管質量分析法によりプラズマ化した原料ガス(ヘキサメチルジシラン)を測定した結果,プラズマ電圧の増加に伴い,CHnSiN (X=5,4)が減少し,H,Si,N2,NHおよびCNの分子が増加していることが明らかとなった.すなわち,プラズマ電圧を高めて成膜することにより,原料ガスのかい離が促進され,水素結合の脱離および窒化を促進したため,有機質から無機質への隔膜に変化したことから,高強度化したことが示唆された.
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