セラミックス焼結体は、電子回路の基板、プラグなど自動車部品、電子材料のコンデンサーやバリスター、碍子など、様々な用途で使用されているが、特にその電気的特性および機械的強度のばらつきが大きな問題点になっている。そのような諸特性は、粒界における格子整合性と密接に関係するということと、原料中に混在している微量な不純物の存在の影響と考えられているが、その詳細は不明である。そのため、粒界諸特性の発現挙動が遷移する対応方位関係(Σ粒界)から僅かに傾角させたNear-Σ粒界について、粒界局所構造を詳細に調べる必要がある。 高純度酸化マグネシウムのΣ5対応粒界および対応方位関係から僅かに傾角させたNear-Σ粒界をモデル系として比較する。汎用型透過型電子顕微鏡、球面収差補正走査透過型電子顕微鏡と第一原理計算を駆使して、残留不純物が偏析しやすい結晶粒界近傍における極微量不純物の所在と形成される微細構造を原子レベルで観察、さらに安定構造をシミュレーションした。 Σ粒界について、高角環状暗視野像と原子分解EELSマッピングより、極微量の不純物であるカルシウム原子とチタン原子が同時に結晶粒界に偏析し、原子スケールで規則配列した自然には存在しない三次元構造(超構造)を形成していることが観察された。さらに理論計算によると、それらが複数の欠陥や電荷と強く結びついて、複雑な安定構造及び特有の電子状態を形成していることが明らかにされた。Near-Σ粒界の暗視野像では、等間隔で配列する直線状の刃状転位に起因するコントラストが観察された。対応方位関係からの僅かなずれによるミスマッチを補正するために、バーガースベクトルが非常に小さいDSC転位を導入して、ミスマッチ領域を局在化していることがわかった。 このように転位と拡散現象を活用し、固体中に低次元量子構造を自己形成させ、特異な電子状態を創生させることに成功した。
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