本研究では、希土類磁石Nd/Nd-Fe-Bの界面に生成されたNd-Oを対象として、高保磁力化に必要な微視的組織形成を理解するための電子論的解析を行った。主な結果が以下になる。 (1) 規則相の基底状態解析。60%酸素濃度にはhP5-Nd2O3、50%にはNaCl-NdOのエネルギーが低い、50%以下の酸素濃度域に安定な規則相が存在しないとの計算結果は、観察された現象の裏付けになった。 (2) NdOx-fccの形成メカニズムの第一原理モデリング。低酸素濃度域に観察されたfcc-NdOx相は、高酸素濃度域における安定な構造に酸素空孔を漸次に導入して以上の構造シリーズに沿って形成される「酸素空孔形成モデリング」を提案し検証した。その結果、ZnS構造をbaseに酸素空孔を導入して形成された構造が広範な酸素濃度域に安定するのに対して、hP5をbaseした各種構造が安定されないことが分かった。また、広い酸素濃度における安定構造に対して格子常数を求め、7%の変化があることが実験結果とよく一致している。さらに、ZnS-NdO、NaCl-NdO 、cI80-Nd2O3、hP5-Nd2O3における1個酸素空孔の形成エネルギーを計算した。酸素の導入により電子状態、電荷分布の変化、原子間距離、格子変形などを調べ、Nd-O酸素固溶体がfcc-base構造から形成されることの電子論的な起源を解明した。 (3) Nd-O/Nd界面の大規模電子構造解析。2種類のNd-OとNd-dhcpの間の界面を構築して安定性を調べた。NdOx-fcc/Nd-dhcpの界面はNdOx-hp5/Nd-dhcpより界面エネルギーが低く、界面近傍の電子状態密度の特徴を考察して、NdOx-fcc/Nd-dhcpは安定しやすいことが分かった。 (4) Cu元素の効果。実験報告された保磁力向上に有効なCu元素をNd-Oに導入して計算を行った。各構造におけるCu原子の存在状態ならびに安定性を調べ、Cu元素はNdO-ZnSやc-Nd2O3に固溶可能で、16.7%固溶することで最安定となる可能性を示した。
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