研究課題/領域番号 |
23560831
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
門前 亮一 金沢大学, 機械工学系, 教授 (20166466)
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キーワード | 高導電性合金 / ナノ組織制御 / 極低温圧延 / 変形双晶 / 転位密度 / Cu-Ni-P系合金 |
研究概要 |
本年度は,Cu-Ni-P系市販合金の導電率に匹敵し,その引張特性より優れたCu-Ni-Fe-P系合金を作製するため,昨年度作製したCu-0.8wt%Ni-0.2wt%Fe-0.25wt%P-0.1wt%Zr合金(以後wt%省略)においてP量を減らしZrを取り除き,昨年度とはさらに加工熱処理に工夫を凝らすと共に,液体窒素温度に近い温度で圧延を行う極低温圧延と適切な時効処理との組み合わせることにより強度向上を図った.得られた結果は以下のように要約される. 1.Cu-0.8Ni-0.2Fe-0.20P合金を450℃の予備時効後40%冷間圧延し再び450℃でピーク時効を行い, 仕上げに60%冷間圧延を実施した.0.2%耐力,引張強さ,伸び,導電率はそれぞれ660MPa,700MPa,8%,64%IACSであり,Cu-0.7Ni-0.13P-0.1Fe市販合金のそれぞれ630MPa,670MPa,7%,65%IACSと比べ,強度は向上し,伸びと導電率は同程度であった.昨年度の上記合金における結果より強度の向上,導電率の向上が達成された. 2.仕上げに80%極低温圧延を0.2%Fe合金に施すと,80%冷間圧延を施した場合に比べ,引張強さは約40MPa増加し740MPaにも達する.この強度の増加は転位密度の増加に加え、変形双晶の存在する領域の割合が増加したためと理解された.伸びは8%,導電率は63%IACSであった. 本年度は,極低温圧延により転位密度の増加だけでなく多くの変形双晶が導入されて強度が向上したことに意義を見出すことができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
適切な加工熱処理を施して作製したCu-0.8Ni-0.2Fe-0.20P合金は,昨年度作製したCu-0.8Ni-0.2Fe-0.25P-0.1Zr合金より強度と導電性が優れ,従来のCu-Ni-P系市販合金に比べても強度は高く導電率と伸びは同程度である.さらに加工プロセス中に極低温圧延を行うことにより,結晶粒の微細化は特に達成されなかったが,多くの変形双晶を導入することができ,さらなる強度の向上に成功した.
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今後の研究の推進方策 |
Cu-0.8Ni-0.2Fe-0.20P合金をベース材として,Cuの積層欠陥エネルギーを下げる効果がある元素をNiまたはPと置換し,変形双晶をさらに導入することによりさらなる強度の向上を図る.例えば,SiをPと置換し変形双晶をさらに導入し,Ni2Si粒子を析出させることによりさらなる強度の改善が期待される.新たに作製されたCu合金に時効処理と極低温圧延の適切な組み合わせにより高強度のみならず,延性の付与も図る.すなわち,高強度・高導電性を有し,市販合金レベルの良好な曲げ加工性,応力緩和特性の付与を目指す.なお,Cu-Ni-Si系合金においては時効処理と極低温圧延の適切な組み合わせにより強度と同時に延性が付与されることを最近見出している.
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次年度の研究費の使用計画 |
インドで開催された国際会議に参加の予定をしていたが,主催者側の不手際のため参加できなかった.本年度は昨年度分と合わせた研究費により他の国際会議参加の予定をしている.
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