昨年度までの研究によって、巨大ひずみ加工中のに生じるナノ析出物の加工誘起溶解反応は、転位による析出物の切断が原因であることが明らかとなった。このことは、ある臨界半径以上の析出物は転位により切断が困難となるため、溶解速度が臨界半径以下の析出物よりも極端に遅くなり、巨大ひずみ加工中に完全には溶解しないことを示している。 従来粒径を有する時効硬化型アルミニウム合金(A7075合金)に時効を施すと粒内にナノ析出物が分散し、析出強化が得られる。しかしながら、巨大ひずみ加工により結晶粒を超微細化したアルミニウムに時効処理を施すと、粒界密度が高いため、粒界に粗大な析出物が形成され、ほとんど時効硬化が得られず、析出強化と結晶流微細化による強化を両立させることが困難であることが知られている。よって、本研究では、昨年度明らかになった臨界半径よりもわずかに大きなナノ析出物を予備時効により分散させた後、巨大ひずみ加工を施すことによって結晶粒を150nm程度まで超微細化させ、かつ、粒内に未溶解の析出物を残存させる加工条件を探索した。その後、より低温で短時間再時効を施すことにより、未溶解の析出物を核として粒内にナノ析出物を分散させることが出来、析出強化と結晶粒微細化を両立させることが出来た。超微細粒材では加工硬化が小さく、均一伸びが小さいことが報告されているが、特に予備時効を393Kで200~2000ks施した後、巨大ひずみ加工として2回転のHPT加工を施し、その後に363K、0.18ks再時効を施した試料では、加工硬化係数が増加したことにより、加工まま材よりも均一伸びが改善した。
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