研究課題/領域番号 |
23560840
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土山 聡宏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315106)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | チタン合金 / 侵入型元素 / 強度 / 延性 / 加工硬化 / 中性子回折 / 不均一変形 |
研究概要 |
省資源で安価な構造用新チタン合金の開発を目指し、高酸素・窒素含有チタン合金における組織制御法および得られる特性について調査を行った。具体的には二相チタン合金であるTi-4Cr合金に酸素および窒素をそれぞれ単独で0.2mass%程度添加し、α相の高強度化および加工硬化性の増大を図った。その結果、降伏強度・引張強度を著しく増大させるだけでなく、伸びも同時に増大させることに成功した。強度を増大させる効果は酸素に比べて窒素の方が顕著であるが、それはc/a軸比をより大きく伸張させる窒素が酸素よりも大きな固溶強化を示したためと説明された。中性子回折により引張試験に伴う応力分配の挙動を調査した結果、α相は高濃度の酸素・窒素を固溶しているにも関わらず先に降伏し、β相が高い相応力を担うことで加工硬化を引き起こしていることが判明した。ナノインデンターによる硬度測定結果からも、β相が硬質相として働いていることが実証された。 一方、二相チタン合金の特性発現機構をより明確とするため、α、β各相を模擬した単相合金を作製し、引張試験とそれに伴う加工組織の発達について調査を行った。ただし、添加した酸素・窒素のほとんど全てがα相に濃化し、逆にCrのほとんどがβ相に濃化していると仮定して合金設計を行った。引張試験の結果、酸素・窒素を高濃度に固溶したα相では純チタンで見られる変形双晶は発生せず、主に滑りにより塑性変形を生じ、顕著なプラナー転位列を発生することが明らかとなった。滑り面やバーガースベクトルの同定は来年度の課題であるが、鉄鋼材料では見られない高歪み域での異常に大きな加工硬化は、粒界などにパイルアップしたプラナー転位列が発生する高い内部応力に起因すると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請の段階では、酸素・窒素濃度を種々変化させた試料を作製する計画としていたが、それによる特性の変化を調査するよりも、同一の試料について詳細に調査を行い、特性発現の機構を明確化することに重点を置くこととした。その結果、中性子回折やナノインデンターを用いた解析など、当初は実施が困難であると思われた実験にまで踏み込んで実施することができた。各実験を通して予想に反する結果も得られたが、目標としていた二相チタン合金の加工硬化の発現機構は概ね理解することができた。さらに、H24年度に予定していた、各相を模擬した単相合金による実験も前倒しして開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
二相チタン合金の特性発現機構をより明確とするためには、各相の特性、ならびに複相材中における各相間の応力・歪み分配挙動の理解が不可欠である。今後はTi-4Cr-O、N合金中のα相(Ti-O,N合金)とβ相(Ti-Cr合金)における強化機構を個別に評価を行っていく。評価のポイントは以下の通りである。(1)固溶強化(粒径の等しい試料における降伏応力の酸素・窒素濃度依存性)(2)結晶粒微細化強化(Hall-Petchの関係式における酸素・窒素濃度依存性)(3)加工硬化(転位強化)(各歪み域における加工硬化率の酸素・窒素濃度依存性)また同時に、二相合金において広い歪み範囲域で中性子回折を用いた相応力、粒応力の測定、さらにはEBSP法とデジタルイメージコリレーション(DIC)法により結晶粒間のミクロな歪み分配挙動をその場観察により追っていくことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
とくに大きな備品の購入は計画していないが、中性子回折、SEM-EBSDなどの使用頻度が高まるためその使用料、また外注での試験や試料作製費も増えると予想されることから、「その他」の予算を大きめに計上している。
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